home > novel index > introduce > キラリ。第3部
明日。2

 4ヶ月は長い。

 フランスに来てから、ずっと留学している、弟のところへ来て1ヶ月。
 私はまたあの頃の私に戻った。

 もう誰も愛さない。
 彼しか愛せない。

 けれど・・・

 私の恋は終わったのかな??
 もう戻れないのかな??
 どのくらい待てば良かったのかな??

 疲れていく自分がわかった。
 こんな自分を彼に見せたくなくて、弱くなって、そして逃げた。
 後から考えれば、あの雑誌の写真の彼は、とても嫌そうな顔をしていた。
 結局、私は彼を信じなかった。

 私が逃げた後を彼が見たらどう思うだろう??
 きっと絶望したんだろう。

 逃げたのは私。
 信じなかった私。

 愛をくれてありがとうと思ったけど、まだ私は彼を忘れられないでいる。






 彼女の後を追いかけようと思いを募らせる。

 恋しいと思うことは彼女の他にも居たことがあるが、愛おしいと思うような女には出会ったことがなかった。
 愛おしいと思うこと、これこそが恋愛なのか?

 初めての気持ちに気づいたとき、俺は相当戸惑った。
 彼女にとっての“初めて”を貰った時、彼女を自分色に染めれたことが、何となく嬉しかったし、大切にしたいと思った。

 大事にしすぎて、どうすればいいのか分からなくなったことがあったのも、彼女が初めてだった。
 それくらいに触って強く握り締めれば、壊れそうなくらいに彼女はとても細かった。それと同じように彼女の心も繊細だった。

 彼女と離れた4ヶ月。

 色んなことがあった。

 売名行為のターゲットとなってパパラッチに追いかけられたこと。
 レコーディングミス。交渉白紙。

 様々なことがありすぎてとても疲れた。
 日々が過ぎていくにつれて、彼女に会うことに諦めを覚えてきた。
 けれど、疲れたときにふと思い出す記憶の中の彼女の微笑が、いつも俺を癒していた。



 終わりのない仕事・・・・。
 終わりのない創作・・・・。




 ―――――彼女が俺の手から離れたと分かって以来、生まれて初めてスランプに落ちた。





「詞が書けない?」
「はい、この前の休暇からずっと魂が抜けたようにソファーに項垂れて。」


 IORの所属する事務所の社長室では、部屋の主の永井と伊織のマネージャーの高原が、頭をくっつけるようにして話し込んでいた。


「一筆も進んでないのか?」
「はい。依頼が来ていたところの3分の2を伊織自らが連絡をしてつき返してしまって・・・。」
「あいつに何か遭ったのか?」
「それが・・・・」


 永井の質問に高原は言葉を濁すと、ちらりと社長室の扉の向こう側にいるだろう伊織のほうを見たあとに、決心したように口を開いた。


「・・・・別れたみたいなんです。」
「別れた?」
「いや、でも別れてはないですね。えーっと、・・・・伊織が帰国してから、彼女の家へ行ってみたら、彼女の姿が消えていた、と。」
「一方的に別れられた、そういうことか?」
「・・・・分かりません。伊織が口を割らないので。でも、私の推測だと、この前の伊織のスキャンダルが影響しているのかもしれません。」


 高原がそう言い切ると、永井は開きかけた口を引き結び、高原を見てドアのほうに目線を向けた。


「立場的に傷つくのは、彼女のほうだからと思って守ったものが、実は違ったということか?」
「・・・・彼女は恋愛に恐れを抱いていたと聞いています。今回の行動は傷つきたくないがための行動だったのかも知れません。それに・・・伊織は4ヶ月間彼女に手紙も、メールも電話も何も連絡していなかったと思います。」

「4ヶ月!!??アホじゃないのか、アイツ!!!・・・・・それにしても・・・・なるほどねぇ。・・・可愛い商品よりもその彼女を弁護するお前もお前らしいなぁ。俺が一方的見解になることを避けるように施すお前は、やっぱり業界一だよ。」
「それは、喜んで良いんですかね?私はこれをいったら伊織に起こられますよ。」

 高原は二人を見守ってきたからこそ言えることを言ったまでだった。
 そうでなければ、互いを好きあっているのに、離れていることの方が辛いことを彼自身が身をもって知っているからだ。

 美羽があの雑誌を見たとき、どうだったであれ自分もフォローの電話を入れるべきだった。
 二人の交際を認めた会社側だからこそ、しなければいけなかったのかもしれない。

 たかが男女間の恋愛といえども、高原はなぜか二人を離してはいけない気持ちになっていた。

 まだ間に合うならば、伊織を彼女の元へ今すぐ送ってつれて帰って来いと。


「伊織に休暇をお願いします。」


 どちらの傷ついた天使も、その傷を癒せるのは互いだけだ、とはまだ気づいてはいない。
 彼らには時間が要る。

 また、互いが向き合って笑いあう様子を、遠くから見守りたいと思う自分だからこそ。
 4年間伊織を見守ってきて、一番大人へ成長した時だったからこそ。


「復帰するときは、誰もが涙する曲じゃないと、許さねぇとでも言っとけ。」


 二人はすれ違っても、一目見ただけで振り返れる。

 振り返ればまた距離は縮められる。



「伝えておきます・・・・」


 だから、手放すな。







update : 2007.11.26
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