home > novel index > introduce > キラリ。第2部
愛唄。7


――――――ゆるぎない愛を 君と




「どうして本番撮りに行われた映像ではなく、リハのそれもLenとピアノの彼しか映っていな
い映像にすり替えたのでしょうか?」

 IORそして、Lenが所属する芸能事務所の社長、永井健吾はテレビ局ディレクターに問いかけ
た。


「『自分の決めたバンドしか手元に置かないというLenが、今日突然指名されてやってきた彼
とセッションをしてあんな歌声を披露するとは・・・』」

「・・・それが何か問題でも?Lenの指名ならば当然のことではないのでは?」

「いえいえ、これは私が言った言葉ではないのですよ。プロデューサーがですね、そう話して
いたのを偶然聞いてしまって。確かに、Lenが直接指名してきたヤツだったら、当然かもしれ
ない。しかし、」

「・・・?」

「『LenはIORの音であったら、アイドルではなく一流の歌手になれる逸材だ。』ともこぼして
ましてね。」

 そしてディレクターは、組んだ手を膝の上に乗せて言葉を続けた。

「そこで思ったんですよ。・・・もし彼がテレビ嫌いの、不動の首位を守るIORであったら、あの
時の歌声は十分に納得できる。さらに、Lenはこの業界で有名なほどIORと仲が良いことも知ら
れている。・・・・Len自身がピンチに陥ったとき、真っ先に相談するのはIORだと、私は信じてい
るのですがね?」


 ディレクターが永井の顔を覗きながら、一つ一つ永井の反応を確認していることは、当然な
がら分かっていた。

 しかし、永井にとってはIORという歌手はどこにも知られてはいけない存在だ。


(守れないのか・・・?)


「もし、彼がIORだったとして、あの映像をこっちの了承を得ず放送してしまったあなた方は
、こちらに対してどれだけの損害を支払っていただけるのでしょうか?」


 金の話。
 それは永井が最もしたくは無かった話だった。


「肖像権、名誉毀損、営業妨害、独占禁止・・・・これらの損害をテレビ局は支払ってくださるの
ですか?」
「うっ・・・」

「近々、私の会社から正式な形で門外不出だったIORを正式にデビューさせようとしていたの
に、あなた方はそれを無駄にしたのですよ。」

「それはピアノの彼をIORだと認めているということですかね?」
「いいえ。」
「・・・・」

「そちらで勝手に舞い上がって、でっち上げに彼をIORに仕立て上げるなと私は言いたいので
す。」

「・・・・・・・・IORが正式にテレビに出るのですね?」
「ええ。近々。」

「ならば、こちらの勝手な解釈を、下に回してやめさせるように言います。それでよろしいで
すか?」

「ビデオの回収も行います。」

「仕方ありません。少々お待ち下さい。」


 ディレクターはビデオの保管倉庫へ行くと、永井はすぐに携帯を取り出して、アドレス帳か
ら一件の電話番号を探した。


「・・・・もしもし、高原か?」




 刻々と時間は回りだす

 誰にもとめられない、永久の輪廻を

 繰り返しては立ち止まり

 変わらぬ世界を僕は見つめてる




 高原さんからの連絡を受け、伊織くんは私に背を向けて、雨の降り出した外の景色をずっと
、見つめ続けていた。

 本当に、これから毎日。
 四角の箱の中に伊織くんが毎日映ることだろう。

 テレビの中で、彼は何回も同じ曲を歌うのだろう。


「ねぇ、美羽さん。」
「ん?」

「俺、これからあんまりココに来れなくなるけど、いつでも来ていい?」

「何言ってるの?そんなの当たり前じゃない。」
「・・・」

「歌いたくなければいつでもここへ来てよ。代わりに私が伊織くんに歌ってあげる。辛くなっ
たら、頭を撫でてあげる。すご〜〜く眠たかったら、膝枕をしててあげる。」


 私がそういうと、彼は振り返って微かな笑顔を私にくれた。


「会える日は、会えなかった分ずっと一緒に居ようよ。」


 堂々と手を繋いで歩くために。


「私はそれだけで十分だから。」








 
update : 2007.09.30
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