home > novel index > introduce > キラリ。第2部
愛唄。6

―――――――ともに歩む喜びを


 Lenの新曲発表の歌番組が放送された。

 週に3回ある歌番組のうち、伊織くんとコラボした番組が一番初め。

 予想していたとおり、Lenはアイドルにして人気があるだけに、高視聴率をたたき出す。
 しかし、そこにはある問題があった。


「あれ??これってさ、本番撮影の時と画面が違うくない??」


 その変化に気がついたのは、私だった。


「・・・」


 それを見た伊織くんは何も言わずに、ただテレビ画面をじっと見つめて黙っていた。


「これ、リハのときのやつだね。」


 突然こぼした伊織くんの言葉に私は黙って、彼を見つめた。
 どうして、本番撮影ではなくリハ撮影をここで使用しているのか、その意図が私にはまった
く分からなかった。


「どうして、・・・」
「それだけ、この画面を他局に売りたいんだよ。本番撮影のときは、俺目立つようにピアノ弾
いてないから。」


 確信を持って伊織くんが言うと、私は呆然としてLenの曲を左から右へと聞き流していただ
けだった。

 ピアノとLenの歌声が、本来のリズミカルな曲をしっとりとさせていた。
 それは、きっと伊織くんが奏でる音楽だから。
 そして、それが特別に聞こえるのは、芳我伊織という人物の持つ才能から生まれたものだか
ら。



 プルルルルル・・・

 突然鳴り響いた電話が予感をさせた。

 私たちのともに過ごす時間が、今までのように行かなくなることを。


「もしもし・・・」


 運命を決める神がいるのなら、どうかお願いです。

 私からこの人を奪わないで。


「どうして、本番撮影と違う画像なんだよ。」
『突然ディレクターが、俺とイオがリハしたときの画像を撮らせてて、んで断りも無く使われ
てた。』
「お前、知ってたんじゃないのか??」
『知らないから、こうして電話かけてきてんだろ。この画像、売られるぞ。』
「IORと分かってか??」
『あぁ、関係者の中にお前知ってるえらい人が居たらしくて、ぽろっと零したんだそうだ。』
「社長は??」
『今、放送中止と映像売買禁止を訴えに行ってる。』


 ・・・お前がテレビに出ないことはできなくなってきたな。

 Lenが最後に言うと、そこで伊織くんは電話を切った。



 居なくならないで。


 この大変なときに、私は伊織くんにそう言いそうになった。


 ただ音楽を作っているだけなのに

 ただ人よりも作った音楽が売れているだけなのに

 ただテレビが嫌いだから出ないだけなのに

 どうして、みんなあなたを求めるの??


 私は思わず、子どもっぽく伊織くんのシャツの裾を掴むと、それに気がついた伊織くんが私
に笑いかけた。


「これから会えなくなるの??」

 私の問いに伊織くんは眉を寄せて私を見ると、少し怒ったように言った。


「それは俺が絶対に許さないから。美羽さん、俺から逃げるの??」
「・・・できないって知ってるくせに。」
「じゃぁ、これからも会えるよ。」



 枯れた心を潤すあなただから、


 私は彼の言葉を信じたかった。






update : 2007.09.16
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