home > novel index > introduce > キラリ。-第2部-
愛唄。5

―――――歩き出そう 何も怖くないから


 俺はなんてズルイ奴なんだろうと、君を抱きしめるたびに想ってしまう。

 そう、だから誰に何を言われようとも、俺は一生君を手放したりなんてしない。






 それが、俺の自分との誓い。








 きっと、世の中には何もないんだ。
 自分の本当の欲なんて形に出来っこない。

 実際に、君を俺と1つにしたいのに、君は君のままでいる。

 そう、そして俺は俺のまま。


「伊織くんのピアノすごかった。感動しちゃった。」

「そう??美羽さんにそういってもらえると、かなり嬉しいんだけど。ありがとう。」



 撮影の後、彼女が1人スタジオの裏のほうで泣いているのを、俺は見逃しはしなかった。

 彼女の綺麗な泣き顔は誰にも見られたくはないし、彼女を誰の視界にも入れさせたくない。
 独占欲丸出しの、餓鬼みたいな行動だけれど、それくらいに俺はこの女を愛している。


 彼女が泣き止むと、少し腫らした目を冷やしに外へ出た。
 すると、彼女は俺に笑顔を向けて言ったのだった。

『伊織くんの音楽を私に聴かせて。――――心で』と。




 最近想う。


 どうして、世の中には男と女が存在するんだろう。

 どうして、何回体を重ねても、何回ひとつになっても、貧欲に毎回求めてしまうのだろう。


 “愛しい”


 この感情は消えてはくれない。むしろ消したくもない。


 風がなびいてゆれる髪の間から、花弁を散りばめた白いうなじが見え隠れする。
 そこには毎回強く吸い付いて、最近はその場所にないことが不自然なくらいになって来た。

 “俺のもの”という、スタンプ。

 俺がその、しるしを見つめていると、彼女は自然と顔を紅くすることを知っている。
 その仕草がとても可愛くて、ついつい抱きしめてしまう。

 その彼女の温かさに、心はいつも満たされるんだ。




「あ、イオ!!」


 後ろから、Lenの声がして振り返ると、そこには見知った顔がもう1人歩いてきていた。


「どうした、なんか失敗でもあったか??」


 俺がさり気なくもう1人のほうをスルーして声をかけると、そいつが悲しげな声をして、
俺に声をかけた。


「えぇっ、イオリちゃんそれってありなの?! スルー??僕ってスルーするほど存在薄い!?」

「うるさい。少し黙れ。」

「僕って嫌われてるじゃん、レンレン~・・・・。」

「被害妄想が激しい奴だな。あ、そだそだ。美羽さん、今日は本当にすいませんでした、
急にイオ借りたりして。」

「え??あ、いえ、別に。私、ピアノ弾いてお仕事してる伊織くん、初めて見たからとても
感動したの。」

「そうなんですか?・・・・以外。」

「え??どうして??」

「だって、こいつは仕事の鬼ですよ??
 学校に行ってるときも、ずっとしかめっ面してて皺寄ってますから。」

「そうなの??私といるときは、・・・そんな顔見たことないけど・・・・。」

「だって、する必要ないじゃん。美羽さんといる時はすごい頭の中が、音楽に溢れるん
だから。書きたくてウズウズしたくなる。」

「私の前でお仕事しても別にいいのに。」

「それはヤダ。美羽さんと一緒にいる時間が減るし。」

「「「・・・・・」」」


 初めて彼女の前でこんなにも強情にわがままを言うのは、彼女の温かさを知るが故に、だ。


「ところでさ、今日の撮影っていつ放送されるんだ??」


 ふと、俺がLenに尋ねると、Lenは俺のほうを向いて、少しうなりながら予定を述べた。


「あぁ、確か、・・・・明後日???だったよなぁ?」


 Lenが後ろにいたミツに声をかけると、ミツはLenの言葉に頷きながら、言葉を繰り返した。


「うんそう。明後日。」


 俺は、ひとまずその言葉を聞き入れると、帰宅に向かってスタジオの出口へと足を向け始めた。


「ふ~ん。分かった。こんな仕事、これっきりにしろよな。もう手伝わないぞ。」

「分かってるって。」


 Lenが二回返事で答えると、俺に向けた笑顔が異様に輝いて見える。

 正直、俺はこいつと仕事を組むときに何事も起きないというのは自信を持って、
ゼロに等しいと声を大にして言うことが出来るくらいに、いつもろくなことがない。

 だから、今回の仕事でも「もしかしたら・・・・」という予想はいくつか立ててある。





 その所為なんだろうか、近い将来のことを考えてしまうのは・・・・。










※ミツ・・・Lenのバックダンス担当。かなりの頻度でLenと組んでいる。数少ないIORの顔を知る人物 。
世間からは、ミツとLenがユニットであると間違われている。
update : 2007.06.06
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