home > novel index > introduce > キラリ。-第2部-
愛唄。3

――――――そっと 僕の手に手をそえて


「は?」


 それは突然の依頼だった。


『だから、俺のバックバンドのピアノ弾け。』

「何で。」

『突然、ピアノ担当の奴がこれないってことになってさぁ。こっち困ってんの。
 しかも、お前の曲ってさ、誰もが弾きこなせるものじゃないって、
 いっっっっっっつも自分が言ってんじゃん??』

「まぁ、そうだけど。」

『だから、こっちの状況分かってるよな、作曲したIORさん??』


 たっぷりキスを浴びせた後、美羽さんとのんびりテレビを見ていた時間。
 突然俺の携帯がけたたましく鳴り響き、話の内容に耳を疑った。

 売れっ子アイドルLenが新曲宣伝のための歌番を収録しているときにことは起こった。
 突然Lenのバックバンドのピアノ担当の奴が、トラブルのせいで
撮影が中断してしまったということだった。

 電話の相手はもちろん、Len。Lenとは俺IORがデビューした当初から、
顔も割れ、仲がよく且つライバルだった。

 業界の中では一番の親友だが、今回の件は俺の業界人生を左右する。


「分かるけど、俺テレビに出ないことが今売りだからさぁ・・・」

『あぁ、その辺は大丈夫!!こっちで適当に誤魔化せるから。
ピアノの奴はあんまり撮るなって言うし、いつもの奴が違ったら、ファンも驚くし。』

「そだな。・・・・場所は?」

『Gスタ。裏に田原さん置いとくから、声掛けて入れるようにしとく。』

「分かった。」


 そこで電話が切れると、ひざの間に座っていた美羽さんが、俺の顔をうかがって
とても不思議そうな顔をしていた。


「お仕事??」

「うん。Lenのバックの奴が、トラブったから至急来てくれって。」

「Lenってアイドルの??伊織くん仲良いんだ。」


 何だか嬉しそうな顔をする美羽さんが疑問に思って、

「何でそう嬉しそうなの??」

 と聞いてみると、とても意外な答えが返ってきた。


「嬉しいよぉ??だって、伊織くんの友達でしょ。Lenって良い人なんだね。」


 ぶっちゃけ端から聞くととてもヤキモチを妬きそうな言葉。
だけど、この女の真意はそこまで深くないことを俺は知っている。

 そう、あくまでも言葉のまんま。『良い人なんだ。良かったね』っていう認識だけ。


「うん、良い奴だよ。」

「そかー。伊織くんがお仕事なら、私何してようかなぁ・・・。」


 そう、小さく座ってひざの上に顎を乗せながら言った美羽さんは、
テレビを見ながら考え始めていた。


「何言ってんの??美羽さんも一緒に行くんだよ。」

「えぇっ!!?そんなこと電話で話してる風じゃなかったよ!!」

「うん、俺って結構わがままだからw」


 笑顔を交えて話すと美羽さんは少し唸りながら考えて、「行く。」と返事をした。






 Gスタ。

 このスタジオは芸能人になれば3日に1回は入るんじゃないかって位に、
使用頻度がとても多いスタジオの1つだ。

 でも俺はテレビに出ることがないから、このスタジオには縁が少ないほう。


「あぁ、来た来た。芳我くん!!」

「田原さんこんちは。」

「急に呼び出したりしてゴメンよ。でも来てくれたから一安心だよ。」

「そうですか。」

「で、芳我くん珍しい人連れてるね。」

「あ、こちらは美羽さん。俺の恋人ねv美羽さんこっちはLenのマネージャーの田原さん。
苗字の響きは高原さんに似てるから、結構良くしてもらってるんだ。」

「はじめまして、田原です。」

「こちらこそ初めまして。北条 美羽です。」


 美羽さんたちが挨拶しあっていると、後ろのドアからLenが現れた。


「お〜イオ。久しぶりっ!!今日はありがとな。」



 こいつと仕事をすると、はっきり言ってろくなことがない。


update : 2007.05.13
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