―――――離れている時間さえ 愛しいんだ
私、やっぱりこの人の瞳に恋してるんだ。
「美羽さんキスしてもいい?」
「う゛っ・・・・・・・・・・・ダメ。」
「え、何で!?」
だって、貴方に見つめられたら、きっと離れることなんて出来なくなっちゃうから。
なんて、私の口からは言うには今の何倍もの勇気が必要だって、自分で自覚してるもの。
「・・・っ、秘密。」
高原さんが去ったこの部屋は当然、私と伊織くんの二人だけしかいない。
私は伊織くんが座っている左横に座って、二人でいるひと時を過ごしていた。
「秘密って言われると、何か聞き出したくなるんだけど?」
「えぇっ!?」
「だってさ、俺、独占欲激しいから、美羽さんのことは全部知ってたいんだ。」
きっと彼は気づいていると思うの。
私を見ながら傾げた首。
得意げに微笑む顔。
頬杖をついた、力強い腕とすらりと存在感を漂わせる長い指。
逞しい肩とか。
すべて私のツボを刺激するその仕草が、私の理性を揺らしていること。
だから、彼は彼なりの武器を持って私を脅して、何もかも・・・私のすべてを曝け出させてしまう。
強い自信に満ちた彼の瞳が、私のそう語っている。
まるで自然に口から出てしまう、私だけに通用する殺し文句。
「だから、キスしてもいい?」
さり気なく、私の腰に巻きつけられた左腕は私と伊織くんの距離を縮めるように、彼の力が私と彼を近づけた。
そして、徐々に近づいてくる彼のきれいな顔。
規則正しい吐息。
私の姿だけが映っている瞳、すべてが好きだから、何もいえなくなってしまう。
「・・・・いいよ。」
唇の距離がスレスレところで私が彼に許可を出すと、それからは何か熟れた果実にかぶりつくように激しいキスを一時の間していたと思う。
最初のキスは、ただ体温が触れ合うだけのキスだった。
2回目のキスは、俺の理性限界ぎりぎりの啄ばんで、もう少し深いキスをした。
それから、体を一つに繋げたときはもう数え切れないくらいキスをした。
それなのに、美羽さんの唇はいつもいつも柔らかくて、熟れた果実みたいに紅くて、彼女の体温を感じるたびに、その唇に触れたいと、触れて離したくはないと自分の心のそこから思っている。
ボイコットをした。
仕事でボイコットをするのはこれが初めてのことではない。
気に入らないアーティストがいれば、容赦なく楽譜も詩も破り捨てたし、怒鳴って喧嘩をして契約とかを白紙にさせたし、気に入らない条件を社長から叩きつけられたら、容赦なく行方をくらませたことだってある。
今回のボイコットは後者のほうだ。
俺は美羽さんに出会ってからというもの、自分のオフを取り付けては必ずといっていいほど、自分の部屋には戻らず、彼女の部屋で過ごすようになっていた。
俺は、この人のことが心の底から好きだ。そしてその好きだという気持ちは、もう積もりすぎて好きだけでは表されないものにまで成長してしまった。
彼女は唯一、俺に安らぎを与えてくれる人だ。
その証拠に、俺は彼女の近くでなければ熟睡も出来なくなったし、彼女に抱きつくと尖っていた感情でもすぐに穏やかになってしまう。
でも、俺は彼女と過ごす時間のほとんどがドキドキしっぱなしなのも事実だ。
美羽さんとオフの日をのんびり過ごしている時、彼女は決まった時間に食事の準備をするためにキッチンに立つ。
俺的にその姿を見るだけでも動悸が激しくなる。
想像してしまうんだ。
将来、一緒になったときいつもこの姿を見れるんだ、とか。
考えただけでものぼせそうだ・・・・。
それから、美羽さんに近づいて感じる体温と、柔らかい肌に触れると何とも愛しくなってしまう。
あぁ〜俺って超アホだ。美羽さんを目の前にして盛り過ぎてる・・・・。
でも、これは男として彼女を大切に思うこと?の一種だと思う。
だから言ってしまうんだろう。
「キスしてもいい?」って。