home > novel index > introduce > キラリ。第2部
愛唄。10



―――――失くすものなど無いと



 IORのテレビ出演が決定してから、雑誌やテレビ番組では、今か今かとIORの出演
カウントダウンをし始めるほど、世間を騒がした。
 雑誌の特集には様々なトピックが立ち並び、特に多い事柄は、

『IORのテレビ出演決定!!あなたはIORを見たい派!?それとも見たくない派!?』


 一般人に聞いたアンケート結果は99.9%で見たい派だった。
 その理由として、今まで見たことも無い人がすごい曲をヒットさせ続けているの
に、テレビに出ないことのほうがおかしい、という意見が圧倒していた。

 見たくないという側の意見としては、テレビに出てきてイメージを壊されるのが
怖いという意見が多かった。

 美羽は、この記事を見て“なるほど・・・”と呟いた。
 その姿を仕事デスクの隣で見ていた八重は、美羽に気づかれないように、後ろか
らそろそろと近づいて、「何見てるのよ。」と、耳元で囁いた。


「うわっ!!・・・もう、脅かさないでよ。」

「何よぉ。仕事中に雑誌なんか読んでるあんたが悪いんでしょ?」

「だって、仕事来ないから暇なんだもん。」


 八重の言葉にふてくされながら、美羽は目線を再度雑誌に落とした。


「あぁ、IORね。とうとうテレビに出るらしいじゃない。」

「・・・そうね。」

「いったいどんなお顔をしていらっしゃるのかしらね?20歳らしいじゃない。あん
たの彼氏と同じ年・・・・ねっ。」


 そう言って、八重は美羽の額にデコピンをした。
 美羽は「痛っ!!」と声を漏らしながら、雑誌を机に置くと携帯を手にしてそれを
裏返した。

 美羽の携帯の裏・・・・というより、その中にある電池パックには、デートの時に撮
ったプリクラが一枚張ってあるのだ。


「何、携帯の裏見つめてるのよ。」


 美羽の不思議な行動に、八重は1人眉をひそめた。
 すると、美羽は「なんでもないわ。」というように、机に置いた雑誌のアンケー
トに目を向けた。


「IORなんて、テレビに出なければいいのに。」

「はぁ?」

「そしたら・・・・」


 一緒にいられるのに。この言葉は、美羽の胸の中だけにしまわれた。


「そしたら何よ??」

「・・・何でもない。これから伊織くんに会えなくなっちゃう。」

「ずっとじゃないでしょ。何死にそうな顔してるのよ。」


 八重はただ、美羽のおかしな発言に疑問を持っていた。


「てか、美羽の彼の名前を初めてちゃんと聞いたよ。“伊織”くんって言うんだ。


「うっ・・・」


(自分としたことが、うっかり伊織くんの名前を出すなんて!!)

 美羽は焦りながらも少々後悔をし、これからどうやってIORのことを誤魔化して
いこうかと瞬時に考え始めた。

 しかし、当の八重は現在そのことを全く知らないので、まだ美羽の心の余裕は保
たれた。でも、伊織=IORは今日、夜の生歌番組で登場することを、誰もが知って
いたのだった。





 そして、運命の時間――――・・・





『さて、今日は皆さんがご期待なさっているゲストが登場します。』


 その番組は全国ネットの大手テレビ局が放送している歌番組だった。
 伊織が言うには、彼の初出演を獲得するために、莫大な取引がなされていたとい
うから驚きだった。


『では参りましょう。今日のゲストの登場です!!』


 まずは、見知っている歌手やアイドルグループ、そしてLenが紹介され、次に伊
織が紹介た時は、スタジオのファンもサクラも声が出ずにただ、伊織の登場を待っ
ていた。

 お馴染みのゲスト登場の音楽が鳴り、拍手と共に初めて伊織が画面に顔を出した
のを美羽は固唾を呑んで見守っていた。


『それでは先週から引き続いて登場してもらっているLenさんと初登場IORさんです
!!』
『こんばんは。』
『どうも。初めまして。』

『こちらこそ初めまして。今日は、IORさんの芸能人生初めてのテレビ出演だそう
で、・・・どうですか?スタジオの感じは。』
『そうですね、いつもはレコーディングスタジオとか、会社とか自宅とかにしか行
かないので、不思議な感じがします。』

『へぇ。ということは、いつもテレビ局は素通りって感じですよね。』
『まぁ、そうですね。』


 テレビの前の美羽、は画面の中で微笑む伊織を祈る気持ちで見つめていた。


『IORさんは普段何していらっしゃるんですか?』
『普段・・・。普段は大学行ったり、会社で打ち合わせしたり、あそこにいるLenのレ
コーディングに付き合ったり、のんびりしたりしてますよ。』

『え、大学に通っていらっしゃるんですか!?』
『はい。20ですからねぇ。』

『へぇ〜!!でも、IORさん美形だから学校でモテるんじゃないですか?』
『それは無いですね。女の子苦手だし。』

『なるほどぉ。・・・と、IORさんがおっしゃっていますが、Lenさんはどうですか?


 伊織の隣にいたLenは伊織と司会者の話を聞いて、 

『・・・・そのまんまです。会うときは必ず電話をかけるんですけど、本当さっぱりし
たヤツで、常に曲を考えてますよ。』


 それ以外もありますけどね。
 テレビの中で喋っているLenの心の声が、美羽には聞こえて何も無いのに、なん
となく胸がどきりとした。


『あ、準備が整ったようです。IORさんスタンバイをお願いいたします。』
『ハイ。』

『LenさんはいつもIORさんに作詞作曲のプロデュースをして貰っていると聞きます
が、実際に今日、そのIORさんがテレビにご出演していることをどう思いますか?

『そうですね。俺が思うには、相当な覚悟だったと思います。でも、・・・俺はあい
つの生歌を聴いたことが無いので、非常に今日はドキドキしています。』

『はい、私たちもドキドキしています。それでは曲に行ってみましょう。IORで“
恋想(れんそう)”、引き続きLenで“夜曲”をお送りします。』








update : 2007.10.04
backnextnovels index
html : A Moveable Feast