――――――先を見つめるその瞳に 僕は
社会での評価なんてどうにでもなると思ってた。
ただ、自分の納得がいく曲を作っていたかっただけだ。
学校の課題で作った曲があまりにも出来がよくて、親友に笑い事として聞かせてみた
ら、そいつが曲を聴いて思い浮かんだイメージをジャケットにして、興味本位でレコー
ド会社や芸能プロダクションに送りつけた。
俺は運がいいのか、その曲が月9の主題歌に使われ世間に俺の曲が知れ渡った。
思ってもいないハプニング。
それからというものの、スカウトに来たレコード会社やプロダクションが、俺の休み
の日を狙ってこぞってやってきた。
でも正直に、芸能界には興味なんて無いというと、スカウトマンは声を合わせて「君
のその容姿なら、テレビに出てからも売れること間違いなしだよ。」と、まるで俺を慰
めるかのように言った。
“顔が出なければ売れない曲なら作らない方がマシだ。”
俺はそういうと、はっきりと画面の中に自分が映る気が無いことを主張した。
すると、ほとんどのスカウトマンはその考えを甘すぎだと評価し、帰っていった。
でも、ただ1人。
現在所属している会社の社長、永井は伊織に言った。
「現在うちの事務所に1人アイドル的な存在を出そうと思っていて、どうしても音楽を
強くしたい。君にはプロデュース面で活躍してくれると助かる。今君がテレビに出たく
ない、姿を隠していたいと言うのならそれでも良い。でも、いつかは覚悟をして欲しい
とは思っている。」
「いつかはテレビに出ろって事ですか・・・?」
「ははっ・・・強制はしないよ。」
永井は26歳にして、大手芸能プロダクションをまとめ上げた1人だった。
永井のその独特な会話の流れに、伊織は徐々にこの会社ならと思うようになっていた
。
「いつかは、すぐってことじゃないですよね。」
「そうだね。すぐじゃない。」
「売り出したいヤツってのは?」
「外で待ってるんだけどね、いつ帰れるか分からないといったのに、“自分のプロデュ
ーサーになるなら一目見ておきたい”と聞かなくてね。・・・・会ってくれるのかい?」
それが、俺がこの世界に入ったきっかけ。
プラスこの業界一番の悪友との出会い。
そして、今。
俺は社長室に呼び出されて、永井からの言葉を待っている。
「IORとして、正体を晒すことは自由が利かなくなるということだ。しかし、俺の願い
としてはお前はお前らしくいて欲しいと思ってる。」
30代になってそれらしい風貌に包まれた永井は、伊織に対して己の信念を曲げるなと
言った。
「俺は何も失わない。守るものは強いから。テレビに出て騒がれるのが嫌悪感たっぷり
だけどね。でも、一度世間に晒されるのも悪くないかとも思う。」
「・・・そうだな。」
美羽を守るのは芳我伊織であり、IORでありたいと思う。
これからは大切な物を守れる力を蓄えよう。
そして、自分の歌を、曲を奏でていくために。
「それじゃ、IOR行くか。」
一歩、一歩、
未知の世界へと旅立つ。