home > novel index > introduce > キラリ。第2部
愛唄。9



――――――先を見つめるその瞳に 僕は





 社会での評価なんてどうにでもなると思ってた。

 ただ、自分の納得がいく曲を作っていたかっただけだ。

 学校の課題で作った曲があまりにも出来がよくて、親友に笑い事として聞かせてみた
ら、そいつが曲を聴いて思い浮かんだイメージをジャケットにして、興味本位でレコー
ド会社や芸能プロダクションに送りつけた。

 俺は運がいいのか、その曲が月9の主題歌に使われ世間に俺の曲が知れ渡った。

 思ってもいないハプニング。


 それからというものの、スカウトに来たレコード会社やプロダクションが、俺の休み
の日を狙ってこぞってやってきた。

 でも正直に、芸能界には興味なんて無いというと、スカウトマンは声を合わせて「君
のその容姿なら、テレビに出てからも売れること間違いなしだよ。」と、まるで俺を慰
めるかのように言った。


 “顔が出なければ売れない曲なら作らない方がマシだ。”


 俺はそういうと、はっきりと画面の中に自分が映る気が無いことを主張した。

 すると、ほとんどのスカウトマンはその考えを甘すぎだと評価し、帰っていった。

 でも、ただ1人。

 現在所属している会社の社長、永井は伊織に言った。


「現在うちの事務所に1人アイドル的な存在を出そうと思っていて、どうしても音楽を
強くしたい。君にはプロデュース面で活躍してくれると助かる。今君がテレビに出たく
ない、姿を隠していたいと言うのならそれでも良い。でも、いつかは覚悟をして欲しい
とは思っている。」

「いつかはテレビに出ろって事ですか・・・?」

「ははっ・・・強制はしないよ。」


 永井は26歳にして、大手芸能プロダクションをまとめ上げた1人だった。

 永井のその独特な会話の流れに、伊織は徐々にこの会社ならと思うようになっていた



「いつかは、すぐってことじゃないですよね。」

「そうだね。すぐじゃない。」

「売り出したいヤツってのは?」

「外で待ってるんだけどね、いつ帰れるか分からないといったのに、“自分のプロデュ
ーサーになるなら一目見ておきたい”と聞かなくてね。・・・・会ってくれるのかい?」


 それが、俺がこの世界に入ったきっかけ。

 プラスこの業界一番の悪友との出会い。






 そして、今。






 俺は社長室に呼び出されて、永井からの言葉を待っている。


「IORとして、正体を晒すことは自由が利かなくなるということだ。しかし、俺の願い
としてはお前はお前らしくいて欲しいと思ってる。」


 30代になってそれらしい風貌に包まれた永井は、伊織に対して己の信念を曲げるなと
言った。


「俺は何も失わない。守るものは強いから。テレビに出て騒がれるのが嫌悪感たっぷり
だけどね。でも、一度世間に晒されるのも悪くないかとも思う。」

「・・・そうだな。」


 美羽を守るのは芳我伊織であり、IORでありたいと思う。

 これからは大切な物を守れる力を蓄えよう。

 そして、自分の歌を、曲を奏でていくために。



「それじゃ、IOR行くか。」



 一歩、一歩、



 未知の世界へと旅立つ。




update : 2007.10.03
backnextnovels index
html : A Moveable Feast