あの事件から、私の周りの空気は少しだけ
変化を遂げようとしていた――――…
ポリクロマ―新しい恋―
ざわついた教室、
きっとアイツがいたらもっと賑やかだったその姿は
この教室からもこの空気を吸うことも無くなった――――
俺はそんな教室の雰囲気を久しぶりに感じてただアイツがいた席を見つめていた。
存在感のあった、ムードメイカーのアイツは今何を感じているだろう?
きっと彼女を心配しているに変わりない。
何も変わることの無い教室の雰囲気がただ
虚しく感じた。
「優希」
ふと呼ばれた、俺の名前に反応して俺は顔をあげる。
あの時から少しだけ時間が流れて
外の景色は俺だけが知っている、冬に差し掛かっていた。
「隣のクラスの芹沢さん、やっと登校したって。」
「そっか、よかった。あのまま―――」
死なれたら俺のほうが立ち直れない。
「お前、ホント強いよな。カイもだけど、俺にはちょっとキツイ現実」
「ははっ。みんながみんなそんなんだったら死んだほうがまし」
「だから、きつい恋愛しようとしてるお前、マジ俺尊敬する。カイもお前もあの子も」
「ありがとう」
あの事故から俺は彼女と知り合ったことになってて、
それからたくさんの関わりを交え、カイのことを受け入れてもらおうと思った。
あのときの彼女はカイの死を受け入れられず、
ただ生きた人形のような生活をしていた。
そんな生活をカイは望んだわけじゃない。
カイは彼女に自分の分まで生きろと言いたかった。
だから、最後に「ありがとう」と「愛してる」と言って去っていったのに。
届かない言葉にもどかしくてどうしても彼女にカイのアイツの最後の言葉を伝えたくて、
でもタイミングがつかめない。
今、いってしまったら彼女は壊れてしまうのではないか。
俺は恐れた。
彼女が傷つくのを一番に。
臆病だろうか、自分のことより彼女のことを思うこと。
「俺には選べない――――」
苦しかった現実に引き戻していいのだろうか。
俺は結局傷つけてしまうしかできないんだ。
だったら、傷つけられるのは傷つけるのは俺だけで十分だろ?
数日後、彼女はあの事件のお礼にやって来て深々と謝ってきた。
「この前はすいませんでした。私の不注意に巻き込んでしまって」
「いや、俺こそ狭い上に何かごめん…」
「・・・・」
「あの?」
「あ、あの、えっと・・・ど、どうして」
彼女は困ったように眉間にしわを寄せて俺を見てきた。
彼女の言葉を待つように一言一言漏らさないように。
「長谷川君・・・は、私のことを知っているの?」
ただ投げかけられた素朴な彼女の疑問が嬉しくて、俺は顔を綻ばせる。
彼女の瞳に映るのがアイツじゃなくて俺で。
不安そうなその瞳に映るのがこれから先は俺であったらいい、と。
「・・・・あぁ、俺アイツとよくつるんでたから。」
「え?」
アイツ?と呟かれたその言葉に付け足すように、
俺はただ傷つけるともわかっていても、
「カイと、俺。中学の時からずっと一緒で、同じクラスで過ごしてきた。
だから、芹沢さんのことよく知ってる。病室でのアイツ、
照れるくらいに自慢して話してた。」
リビングの空気が張り詰める。
ソファに腰掛けた君は目を見張って俺を見つめて今にも涙を流しそうで
我慢をしてるように見えた。
「我慢してる、今。芹沢さんがどれだけアイツを好きだったか
知ってるから俺は我慢、して欲しくない」
目の前の人は、今の傷ついた私をただ見つめて温かい目で見つめて彼を知ってると、
私の知らない彼を見てきたよ、と優しくまるで私を傷つけまいというように
彼の優しさが心にしみた。
『俺以外のヤツ愛してやってよ――――』
カイの言葉が頭に響く。
この人なの?
カイと一緒の魂を持つのは。
私がこれから愛していくのはこの人なの?
見つめた先の彼は、ダレナノダロウ・・・?
だけど、もう少し決心がつくまで、確信が持てるまで、
私をあなたの物でいさせてじゃないと私があなたを忘れてしまう・・・。
気がつけば名を口ずさんでしまう
ユウキ――――優しく響くそんな名前。