home > original works > novels index > 第1部 過去を想う少女












心に残る人。

目の前にいる人。












それはどちらも大切で

失すことができない。












だけど、どちらも選ぶことができない。
























私は歩みだした。

新しい世界を、見つけるために。

どうして人は歩むことをやめないのだろう。

それは人が歩む足をもつから。

ただ、

神様が人間に与えた唯一のものだから。


「紫苑ちゃん、最後までありがとうね。」

「紫苑ちゃんのおかげであの子すごくいい顔して眠ったから。」

本当に・・・・


カイの眠りは本当に穏やかだった。

それを私は彼の両親に感謝された。


私は名前の意味のように彼を思い続ける。

たとえ彼以外の人を愛したとしても、私は彼を愛した時間を忘れない。

そう絶対に。

私は忘れたくないから。


「あの子の変わりに、たくさん恋して、たくさん愛を教えてほしいの。

 それはあの子の願いでもあったし、自分で愛してやれないのが悔しいっていってたけど、

 私は紫苑ちゃんがあの子を好きでいてくれたことを忘れないし、紫苑ちゃんなら、きっと、」

風が最後の言葉をかき消した。

最後に呟かれた言葉はなんだったんだろう。

それから私はいつでも帰ってきてと伝えられ、別れを告げた。

運命は私を遠ざける。

どうして私を彼の見取り人として、傍に置いたのかわからない。

どうして私はまた歩みだすのかさえ。






ふと気づけば涙が流れていた。

一筋一筋、丁寧に頬をなぞるように流れていた。



・・・・泣かないで、愛しい人――――・・・・・・



彼の声が聞こえたかと思えば、彼が私を包む温かさを感じた。

でも、それは消えてしまった。

空に包まれて、

耳を澄ませば、あの歌詞のフレーズが思い出される。


側にいて愛する人、と。

「・・・・・」





そして私は出会ってしまう。

今、私の側にたたずむひとつの影が

3人目になること。







駅のプラットホーム

ぶつかりあう体に 運命が重なり合う。

ドンッと体をぶつけると

そこには、

「ごめんなさいっ」

散らばったレポートを拾って、

きれいな女の人が、目を赤くして立っていた。

その人を俺はなぜか

見放せなかった。




とても弱々しく、

























update : 2006.03.07
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