蓮は綺麗な水でしか咲かない。それは、何を意味しているのか。
蓮には、仏が宿るという。けれど、俺にはそうは感じない。昔の人は、八百万を信じていた。だからきっと、森の奥で見つけた綺麗な池に咲いていた蓮が、神の宿る華に見えたのかもしれない。
けれど、今ならそれを信じて見たいと思える。
もし、その世界に「輪廻転生」何てのが本当にあるのなら、俺はずっとそばに2人がいて欲しいと願うから。
2人に愛されてこの世に生を受けたいと願うから・・・・。
「私はすぐにドイツの方へ帰るんだけど、沙耶がどうしてもこっちで過ごしたいって言ってきたから、私も止められなくて・・・・」
「まぁ、そうなの?でも、良いじゃない、優希くんがいるだけでもちょっと違うんじゃない?」
「うん、まぁそうなんだけど。・・・あの子なんか、バイト始めたらしくて。そっちも心配なのよね。」
「あははっそんなのはねぇ、経験させとけば良いのよ。男の子なんだから放り出しちゃっても、責任は自分で取るでしょ」
「そうねぇ・・・・」
中学3年の時、幼馴染でずっとドイツに行っていた優希が帰ってきた。
帰って来て早々、俺は優希んところに顔を出したけど、あいつは帰ってくる間際に、金の換金を忘れたらしくて、それからお世話になった人んところで、バイトをしている。
せっかく俺が出向いてやったのに、アイツは向こうに行っても自分のペースを崩さない薄情な性格は変わらなかったらしい。
「っち・・・」
俺が舌打ちをして、優希ん家の庭を散策していると、ずっとリビングで話しこんでいた母さんが、顔を出した。
「カイ、優希君バイトらしいから一端家に帰る?」
「はぁ!?今日アイツ家にいるって行ったんだぜ?せっかく俺が出向いてやったのに。」
「まぁまぁ、落ち着きなよ。」
母さんに宥められ、庭を見渡していた俺は、変わらぬその風景をボーっとして眺めて、その場に座りこんだ。
憂鬱な一人の時間。
あと何回見れるか判らないこの庭の景色を、目に焼き付けたかったのかもしれない。
夕日の差し込む、庭園のような庭は病に蝕まれる俺の身体を、別の空間にでも吸いこんでいくように、
緑と水の青で俺の視界を包んでいた。
“俺”という人間は、生まれたときから死んでいるも同然だった。
だけど俺は、アイツ…優希と出会って、「死にながらもこいつのためなら生きたい」と思えるようになった。
優希のためなら喜んで生きてやる。
俺は生まれたときから、血液の特殊な病気でろくに運動もできなければ、生活もすることも困難な体つきだった。
でも、母さんの血筋だけ合って、俺の性格は負けん気が強くて、人が右といえば左という…一言で言えば、捻くれた奴だった。
だからと言う訳か、今まで仲良く遊んでいた近所の奴らが俺の病気のことを知ると、遠慮を覚えたのかそれとも怖くなったのかはわからないけど、急に俺と距離を置くようになった。
確かに、自分たちと同じように遊べない俺は特殊な奴だし、捻くれた性格も拍車をかけて人に嫌われることは慣れていた。
でも、俺だって人から嫌われ続けるというのは気分が悪い。そう思っていた矢先に転機が訪れた。
そいつは俺のことを自分と同じ様な扱いをし、一生懸命走れ・食え・勉強しろといいながらも、俺が真っ青な顔をすると無理するなと無茶を言う。
だけど、俺にとってはとても過ごし易い心地がして、そいつのおかげで俺は開き直おれた。
そんなある日、俺は俺の生涯で忘れられない言葉を耳にした。
「なぁ、優希。?(カイ)の奴といっつも一緒にいるけどさぁ、アイツ疲れねぇ?」
「は?どこが。」
「だってさぁ、?(カイ)病気じゃん!!アイツ走ったりできないからさ、こっちが気ぃ使わなくちゃなんねぇじゃん。超迷惑。」
「おまえらさぁ、あほ?」
「はぁ!?」
「お前ら全然、カイのいいとこ見てねぇじゃん。俺にとったらアイツすげぇ面白い奴だよ。」
「優希何いってんの?」
「アイツすげぇ面白いし。短い時間だけど、俺よりバスケ巧いし、勉強できる奴だし、読む本多いからお勧め本とかたくさん読ましてもらったし。」
「何、?(カイ)って優希よりバスケ巧いのかよ!?」
「あぁ、そうだけど。ってお前らさ、カイの親友の俺の前で、アイツの悪口とか言うなよな!!ムカつくから。じゃぁな」
・・・・本当、何気ない一言だったと思うけど、俺にとっては何よりも嬉しい言葉だった。
そして、俺はこいつのためなら命の限り生きたいと思った。
だけど、俺はこいつとそう長くはいられないことを知っている。
生きたいと思いながらも、死んでいるこの世界から早く脱け出したい、といつも願っている自分がいる。
俺は本当に捻くれた野郎だ。
もし、この世に運命を司るって言う人がいるのなら、俺はぜひ聞いてみたい。
…どうして俺を生まれさせたのか。
俺の世界は生きながら死に、死にながら生きている、
なぁ、どうして俺は生まれてきたんだ?
俺は命の果てまでこの問いをするんだろう。
そう思いながら、俺は日が傾き始めた西の空を見上げた。
遠くのほうから、車のエンジン音が聞こえる。
隣の家からは、忙しなく人が動く気配がする。
見上げた空の向こうは何があるんだろう。
なんとなく、そんなことを考えながら、道の角から優希が帰ってくる姿が見えた。
俺はそれに気がつくと家の門から体を乗り出してアイツのほうへ左手を上げた。
アイツは、どんな・・・・・