home > original works > novels index > 第2部 友を想う少年
27ー3

 紫苑ちゃんに向かって放たれた弾は肩をかすめて命に別状はなかったけれど、その日でた熱の所為で記
憶が跳んでいた。それに加え、父の死。
 紫苑はそれから、生きた屍のようになってしまった。

 紫苑が日本へ帰国する日、優希は意を決して紫苑の前に訪れた。しかし、精神不安定な高志の妻由紀子
は、優希を責め、ヒステリックに叫んだ。


『お前さえ、居なければ高志さんは死ななかった!!あんな事が起きなければ、紫苑は記憶をなくさずに済ん
だのにっ!!どうして、私たちの前に現われられるの!?出ていって!!』

 私はその光景を偶然目撃してしまった。
 悲しそうな目が忘れられなかった。
 家に帰っていく君の後姿。思いつめた目。すべてが忘れられなかった。
 高志を救えなかったのは、私の落ち度なのに。
 責任がすべて君の方へと向いてしまうことに、苦しめられた。

 誠也君が時々ここを訪れては言うんだ。

 思いつめた君の目はなんと虚ろなんだろう、と。
 母親の暴言を止めきれなかった自分を責めていた。
 精神が錯乱しているとね、人間何を口に出すかわからないから。


「(――――――――――・・・とまぁ、こんな話しだよ。)」
「(・・・記憶が繋がった気がする。)」
「(それは?)」
「(どうして、あの時おばさんがあぁ言ったのかわからなかったんだ。でも、高志さんが死んだのは自分の所
為なんだなって、思うことしか出来なかった。)」
「(優希・・・・)」
「(でも、人を傷つけていたんですね。俺は。)」


 優希は顔をしかめながらディケンズに向かって言うと、ディケンズは真っ直ぐ前を向いたまま、顔を横に
振っていた。

 どうして人は過ちを犯してしまうのだろう、ポツリと呟いていた。


「(すべては時が悪すぎたんだ。悪い事が重なりすぎたに過ぎないんだ。)」

 ディケンズは半ば諦め悲しみ、声を弱くして目頭を押さえた。

「(でも、ありがとうございました。俺はこれで、よかったんだと思います。)」

 そう言ってたち上がった優希に向かって、ディケンズは慌てて立ち上がった。

「(優希君、君はまだ忘れているんじゃないのか?)」
「(え?何を・・・)」
「(高志との約束だよ。)」
「(高志さんとの?)」
「(伝えたのは、俺なんだけどね。)」
「(・・・・もしかして、あの時の?)」

 そう、優希が言うとディケンズは優希に笑いかけて大きく頷いた。
 高志の葬式の日ディケンズは優希を呼び出し、高志からの伝言を伝えた。
 紫苑を守れ。
 その一言を。

「(あの夢は、あなただったんですか。)」

 優希は心のどこかで満足して、にこやかに笑いかけることができた。


 それから、心ゆくまでディケンズと話しをした優希は警察署を出ると、足軽にバス停に向かった。
 そこに未来が見えた気がした。
update : 2007.01.10
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