俺には今でも帰りたい過去がある。
あの時あの場所にいなければ、絶対にあの人は死ななかったのに
それはいつも思い返す、取り返しのつかない
俺が背負った罪。
俺が君を無くしたのはきっとその報いなんだろうと、今でも思っている。
君の記憶の中に、どれだけ俺が存在してるんだろう?
たぶんキミの中に、あの時の俺はいないだろうけど。
テスト3日前―――――
高3のテストは忙しいと、それは耳にタコなほど俺は担任から責められていた。
その原因は自分でもわかっている。
「おい、長谷川。最近模試の結果は問題ないが、・・・志望校が統一されてないな。決まってないのか?」
それは模試があれば決まって呼び出されていた、俺の中の儀式。
担任に毎回模試の志望校のことで呼び出されるのは、まれではなかった。
「ええ、まぁ。」
決まりきった台詞は俺にはとても聞き飽きた言葉だった。
「そうなのか。まぁ、今の成績でもT大はどの学部でも余裕だが・・・将来の志望は決まってないのか?」
「前はありましたよ。」
「前?」
進学率を上げようと必死になる教師。
どうにかして、有名難関大に行かせて、名を馳せようという魂胆は俺を幻滅させていった。
「神藤・・・・アイツのために医者になる覚悟はありました。アイツは病気が発覚する前は『自分が医者になる』といっていたから。」
「・・・長谷川」
担任は俺の志望を聞くと大きく目を見開かせた。
そんな理由で志望していたのか。と、言葉を聞かなくても解かった。
「でも、今は自分が何をすべきなのかさえ解からないんです。」
「長谷川落ち着け」
「俺は落ち着いてますよ?」
「なら、考えられるだろう?お前は確かに人のために働くかもしれない。自分で医者になろうとしたかもしれない。だが、今の長谷川の考えは違うだろう?」
担任の言いたいことはわかっていた。
”自分で考えた進路決定をしろ、人に動かされるな。”
「そんな気持ちで医者になっても、神藤が喜ぶと思ったのか?」
「だから、今はそんな考えありません。医者は厳しい職業だって知ってますよ。」
だけど、と俺は続けて担任の目を見て訴えかける。
「――――――死者の遺志は俺には伝えられてないんですよ。・・・芹沢にしか」
”もう少し、お前という人間を探してみろ”
俺は担任に一言そう言われて職員室を後にした。
気がつけばいつの間にか自分の部屋にいてボーっとしていた。
『Truuuuuu…』
夜、ベットに寄りかかりながら、思いふけっていると机の上に置いた携帯の電子音がけたたましく鳴り響いた。
「もしもし」
『Guter Abend, Yuki』
――こんばんは、優希。
この前は自分が話していたのに、他人からまたその懐かしい音を返されるのはひどく懐かしい気持ちがして、どこか心を落ち着かせる。
「あ、誠也さん。」
「よぉ、勉強中だったか?」
「いや、別に。今日はどっちにしろしても一緒だし。」
「え、お前集中型なの?」
「そんな切羽詰ってないですよ。ただちょっと・・・」
「あぁ、聞いたぜぇ。T大余裕らしいジャン?」
「それは解かりませんよ。本試験じゃないと。俺と同じくらいのヤツはたくさんいます。」
「・・・お前さぁ、もう少し自分に自信持ったほうがいいぜ?」
俺は誠也さんの言葉がなぜか胸にちくりと刺さった。
「どこにそんな余裕が・・・・」
「お前、優しすぎるんだよ。いつも思うことは自分のことを後回しにして、いつも自分を責めて、俺からみれば相当苦しそうに見えるぜ。―――俺の親父にしても。」
「だってあれは」
「誘拐された子供を助けない警察がどこにいんだよ。しかも相手は国際指名手配犯。オヤジが追ってたヤツ。・・・死ぬ覚悟くらい出来てたんだ。お前の言う覚悟とは違う、な。」
『覚悟』
俺の頭はその二文字で埋め尽くされていた。
「カイと話したことがあって、お前アイツのために医者になろうとしたんだって?今は?」
「今は、わかりません。」
「医者になろうとしたんだ、どっかに人を助けたい気持ちがあったと仮定して・・・お前にとっての『助ける』って何?」
「・・・・」
――――――――俺にとってのタスケル?
「悲しみを和らげること?傷を癒すこと?苦しみから救うこと?紫苑はお前のおかげで助けられたよ。」
「それは、カイの手紙で・・・・」
「でも、読ませたのはお前だよ――――――………
――――『優希、お前が本当に救いたかったのはお前自身じゃなかったのか?』