心の葛藤
欲しいもの欲しくないもの
人は毎日すべての生きかたを選んでいる。
誰を好きになって
誰かを嫌いになって
誰かを愛しあいされ・・・・・・
『Pipipi・・・』
突然鳴り響く携帯がメールの受信を告げた。
++++++++To.芹沢+++++++++++++
今日時間ある?
てか、地下鉄抜けたら電話する。
++++++++++From.長谷川+++++++
暇を持て余しているところにちょうど頃合いを見計らったようなメール。
私はその一文を見て身を強張らせ
何かと思いながら優希君からの電話を待った。
・・・・―――芹沢ッ!
この前カイの月命日に教室から空を見上げた。
お墓にいける時間もなかったし、カイにすまないと思ったけど、
前より通う回数を減らすことが出来た。
――――芹沢が泣いてる気がして
――――解かるんだ、芹沢のこと。
優希君はどうしてそんなことを言ったのだろう?
私ね、どうしたらいいのか全然わからない。
この心の葛藤の原因は何?
優希君なら知ってること?
あの後、私は何に泣いたのかも解からず、
教室に飛び込んできた優希君に抱きついて泣いた。
ただ、黙って胸を貸してくれた優希君には
すごく情けないところを見せてしまって
とっても、格好悪い感じがしてならない。
「過去の恋から吹っ切れること」
それって、どういうこと?
好きだった人を忘れること?
一緒にいた時間を忘れること?
愛したこと?
今わかっていることは、その答えを優希君なら知ってるんじゃないかってこと。
そして、私は一人ぼっちの教室で彼が飛び込んできてくれたことに
安心感を抱いているってこと。鼓動が速くなること。
『〜♪』
着信音が部屋中に鳴り響く。
優希君のイメージに合わせた着信。
「もしもし」
『もしもし、芹沢?』
「うん。メール見たよ。何か珍しいね、電話とか」
『あーそうだね。かなり久しぶりだけど、メールの・・・今日大丈夫?』
「それは大丈夫。それより、どうしたの急に」
『あのさ、ちょっと付き合って欲しいところがあるんだ。
これは芹沢にしか頼めなくて。内容は・・・来てくれたら言うけど』
「うん行くよ。何時にドコ?」
『じゃぁ、10時に芹沢の最寄り駅の北口で』
「うん。解かった。後でね」
携帯を切ると私はベットに寝そべっていた体を起こしクローゼットの中の洋服を物色しはじめた。
久しぶりのお出かけに気分はハイになるけど、何を着ていったらいいかわからない。
カイとはまた違う感性。意識。雰囲気。
私はそのことに戸惑っているのかもしれない。
後で・・・ってどこに行くのかな?
Gパン?スカート?
外と内どっち?
とりあえず、Gパンという無難な線を踏んで私はそれに合わせて
上のキャミソールなどのコーディネートをした。
ぶっちゃけて今日の呼び出し内容によっては私の思うことが違う。
だって、優希君の場合誰か別の子に頼み事をすれば、それは二つ返事で誰も文句を言わずしてくれる。
日本人離れした顔つきが誰の目にもとまる。
どこか懐かしい雰囲気を持つ優しい彼だからこそ魅了するソレ。
気がついたら約束の時間に歩いて行っては間に合わないほどに
なってしまって急いで着替えてしまうと少しだけ、
男の子と歩くということを意識して化粧を薄くすると部屋を出た。
「お兄ちゃん、ちょっと駅まで乗せてってくれない?」
ちょうど居間で暇そうに新聞を読んでいる兄に声をかけると新聞から目を離して私を見上げた。
誠也お兄ちゃんは私の兄でお父さんが死んでしまったときにずっと私を支えてくれた。
そして、『ずっと守るから』と言ってくれた男の子。
今はどうしてるのかわからない。
私がドイツに留学したときにはすでに単身日本に帰国した後だった。
なぜ、今これを思い出すんだろう?
「何だ、デートか?・・・もう、大丈夫なのか?」
心配してくれるのは誠也お兄ちゃんが、お父さんのことも、カイのこともずっと側で見ていたから。
「違うよ。友達が誘ってくれたの」
「にしては、化粧の仕方がいつもと違うんじゃないの?
ほら、晴美ちゃんと遊ぶときと・・・あ、相手男?しかも、」
その化粧の仕方だと、10月くらいにお世話になった人。
誠也お兄ちゃんはご丁寧に相手まで詮索するとにんまりと満面の笑みを浮かべた。
「いいじゃん」
「何だよ。当たりかよ。つまんねーな。てか、送ってくとなると、
俺はそいつの顔が見れるわけだ。俺ってラッキー」
うきうき気分でお兄ちゃんは車のエンジンをかけると、助手席に私を乗せ車を発進させた。
駅までは車で5分ほど。
優希君には少し遅れると伝えて、北口近くのターミナルで降ろしてもらうことにした。
車を降りようと車を止めてもらうと、そこにはもう優希君が着ていた。
「あ、あそこにいるヤツ?」
ニヤニヤしたお兄ちゃんに私はその頭をたたいて制止させた。
私服。
久しぶりに見るけれど、制服を着ているときとはまったく違う
キラキラした雰囲気を優希君は纏っているように見えた。
こちらに気がついた優希君が、私たちの乗っている車に近づいてきて手を振ってきた。
「あれ、あいつ・・・・」
急に不思議そうな声を発したのは誠也お兄ちゃんだった。
とても不思議そうに、優希君を見る目。
「え、お兄ちゃん知ってるの?」
「えっ・・・・あ、いや。何でもないから。てか、ほら行ってこいよ。」
「ああ、うん。ありがとう」
行ってきます。そう告げ車を降りるが、今さっきお兄ちゃんが発した言葉に
私は突っかかりを覚えてしまった。それを決定付けたのは優希君だけど。
「急にごめん呼び出して」
「ううん、いいの。暇だったし」
「送ってもらったの?急がなくても良かったんだけど・・・・」
「うん。何か人を待たせるのって気が引けて」
「お兄さん?あの人」
「ああ、うん。5つ離れてる兄」
「・・・・あの人、(ドイツにいるときに見た、人)」
最後のほうは一人呟いて私が聞くことは出来なかった。
すべてが繋がり始めるの。
運命は廻り始めたの。
羽はなくしても生えてくる。
じゃ、翼は?
誰かが片翼を無くしたと嘆いている。
誰かが愛を無くしたと蔑んでいる。
誰もが幸せになれない時に私たちはなぜ生を与えられるの?
それを見つけに行くための人生なの?
私にはまだ、真理を見つけ出せることが出来ないみたい。
ねぇ、教えて欲しいことがあるの、
この世で必要なものっていったい何?