私たちは進みだす
1歩、また1歩と。
時間の止まってしまったあなたには、
ただ見守って欲しいと思ってる。
「優希君、私たち付き合ってるんだって」
「え!?」
晴美たちの待つ中庭へ二人並んで歩いていた。
私の何気ない好奇心でふざけてそういって見た。
案の定優希君は期待を裏切らずに驚いてくれる。
この場所は居心地が良い。
確かに隣にいると落ちつくから好き。
でも、私はどんな好きかもう、解らない。
晴:「ねぇねぇ知ってるぅ〜?長谷川君、彼女いるんだってぇ〜」
浩:「え〜うっそぉ!!ずっと目ぇつけてたのにぃ。どこのドイツよ!!
私の長谷川君横取りしたヤツぅ〜!!」
晴:「ナンかぁ、神藤君の元
彼女らしいよぉ??
死んじゃう直前まで付き合ってたんだってぇ。」
浩:「えぇ!!彼女作ろうとしてなかった、カイ王子の!?」
晴:「そうそう。マジボレしてた芹沢さんだってぇ〜・・・。」
浩:「マジショックゥ〜!!ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!!
私ぃ、勝ち目無いじゃぁん!!・(ノД`)・」
優:「・・・何、してんの??」
優希君は私の話を聞いた後沈黙してしまって、そのあと晴美たちのところに来て見れば、
浩介くんと一緒に妙な会話を繰り広げていた。
やっと口を開いた優希君は、晴美たちの寸劇に汗をたらし見ていた。
ジョークでいちゃつくカップル。
私は初めてお目にかかったかも知れない。
「お、やっと来たか。お前ら来るまで時間かかりそうだったし、何して待とうかって話してたら、
後ろで色々話してたヤツらの会話が気になって、真似してたんだよ」
いかにも待ってました、な状態で浩介くんは立ち上がって、優希君のところに寄ってきた。
怪訝な顔つきをした優希君は、何となくなんだろう。
少し浩介くんと距離を測った場所に移動した。
「そうじゃなくって、浩介、ナンでそんなにマスターしてるんだって話」
「・・・・・そこは企業秘密だろ?」
いたって浩介君は優希君と違って場を盛り上げる、
ムードメーカーがいたく似合っている。
おそらく、元気だったらカイもここにいるはずだ。
それとは反対に、優希君は冷静に物事を判断して
2人が行きすぎたら止めるストッパーやくって所だったんだろう。
でもね、私。
カイがいなかったら、優希君とは出会わなかったんだって思う。
そう、
思うよ。
「・・・で?さっきの話の続きは?」
「あぁ、あのさ。私たちがここで場所取りして待ってたら急にそんな話がして、
『これは長谷川に教えてやらな!!』・・・・と、浩介が言った訳です」
「んで、ギャル語カンバセーションマスター蓮見浩介様が一皮向けて、
優希に教えてやろうかなって」
「なに、『ギャル語カンバセーションマスター』って・・・ネーミングセンスないな」
『キーンコーンカーンコーン』
午後からは春休みの課題テストがある。
教科は国語・英語・世界史。
3年になって選択している教科が優先して行われる。
だから、たぶん優希君立ちは国語・英語は同じで世界史とは違って数VCが入ってるはずだ。
時々思ってしまう。
私は優希君をカイと重ねてみてしまうこと。
カイを優希君と重ねてみてしまうこと。
何て思慮深い人なんだろうって。
ちゃんと言葉を選んで話すところとか。
ドキンドキン・・・
鼓動が波打つ。
私は恋をしちゃダメ・・・・
恋をしないで・・・・
『キーンコーン・・・・』
気が付けば終了のチャイムがなっていた。
その日はその他の科目に向けて生徒は早く帰される。
私は晴美のところに近づいて早く帰ることを告げた。
晴美たちは3人でゲームセンターによると言っていた。
手を振って晴美たちが教室から出ていくと一気に人気が無くなる。
私はただ一人、
教室に残って窓から空を見上げた。
ただ、空を見上げた。
透き通る青い空が、虚しく感じるのはなぜ?
ねぇ、どうしてこんなに空は変幻自在にその表情をかけて、
ねぇ、どうしてこんなに私達の心は空のように満たされていなくて、
この手を宙にかざしても、得られるものは何も無いの?
愛は変わらない、何て私はどうして思ったりしてるんだろう。
どこから来るんだろう、その自信は。
今にも潰れそうなのに。
カイ、元気ですか?
私は寂しい。
ねぇ、私の隣には常にあなたがいて、
あなたの隣で私が笑っていることが
私の夢だった。
叶えたいことだった。
叶わないと知っておきながら、叶えたいと思ってた。
「片翼」を失った私。
どこかできっと探しているの。
あなたと同じ魂を持った、
私を愛する人。
私が愛する人。
短い時間でも良い。
来て欲しい。
心のどこか深くで思いを閉ざしているから、
私を、
探して―――?
「芹沢ッ!!」
バンッと大きい音を立てて開いた場所に
居る筈も無い優希君が息を切らして立っていた。
落ちつく場所。
優しいあなた。
優しく希のある、その名。