home > original works > novels index > 第1部 過去を想う少女
12





恋とか愛とかなんて

高校生の私達にはまだ早すぎると思うの。

ううん、もう 私のなかでは消えうせたと思ったの。


カイを忘れて次の恋をする事なんて ずるいって。

だから、私には無くなった感情だと言い聞かせていた・・・・




















カイ、元気ですか?

時が流れるってとても早い。

空の居心地はどう?

もう、私たちは3年生になっちゃったよ。

カイがずっと心配していた友達も優希くんや晴美のおかげで

たくさんの人と出会う事が出来た。

夏が来たら、カイがそっちへ行ってしまって1年。

夏が来たら、カイは行ってしまうね。

カイが私の心をしっかり持っていってしまったから、もう誰も愛せないから―・・・。

カイから最後に貰った手紙を今も読む気になれない。

勇気の無い心構えがあなたを縛りつけてごめん。

傷つく事を恐れてごめん。

私はいつになったら一人でたてるのかな。

今、少し、カイに会いたいよ・・・・・。











「紫ぉ苑♪」

「あ、晴美。おはよう」

「おっはよ!クラス替え表見た?」

「ううん、まだだよ。」

「だよねぇ〜、じゃぁ一緒に見にいこ?」

朝から機嫌の良い晴美は私の肩にもたれて嬉しそうな顔で私の隣を歩いた。

そう、今日は4月の始業式。

私たちはとうとう受験生となり、この学校を巣立つ準備をする。

去年の今ごろはとても不安でそして、カイに出会った季節。

とても短かった彼の恋人。




「紫苑はなに選択した?」

「えっと、世界史と英語。私受験全部文系だから。」

「マジ!?私もAぉ。紫苑英語完璧だし、頭良いから理系かと思ってたから不安だったの。
 一緒のクラスになれたらいいね!!」





「晴美は浩介くんと一緒が良いんでしょ?」

「嫌よ、私アイツについていける自身が無いもん。理系だし。」

「そうなんだ。」

「そうですよ?長谷川も理系だし、あ”〜〜〜」

「どうしたのよ?」

「・・・・・・・何でも無い。」



黙り込んだ晴美の顔は頬を膨らませて少しむくれている。

でも、クラス替え表の近くになると妙にハイテンションになって嬉しそうにしているのが見えた。

「おはよう、芹沢。」

「優希君。おはよう」

「おはよう 芹沢さん。ところで、
 あそこで一生懸命背伸びして唸っているのは俺のか?」

「そう。クラス一緒が良いなって」

「あぁ、一緒だったよ?クラス、文系3−2だよ」

「ホント!?」

後ろから呼びとめられた声の主は私たち2人が最も親しくする人達だった。

クラスが一緒。

それは私にとって1年間の楽しさを思わせた。

「ちなみに俺らは理系3−7だいぶん離れましたな、優希」

「あぁ。教科書と課題忘れた時ちょっと大変だな」

優希君の思わぬ言葉に私はクスクスと笑いを漏らす。

「もう、そんな心配?優希君たち頭いいんだからそんな心配無用でしょ?」

「そう言う、芹沢もきっちり順位入ってんじゃん。」

「優希君ほどでもないよ」

笑い合う二人、私はこの空間が1番好きだった。

ちゃんと笑えるようになったのはごく最近。晴美たちと付き合うようになってから。

優希君は無理に笑う事を強制しない。

ここが私の居場所だった。



「俺やっぱ芹沢としか女子とまともに喋れないと思う」

「え?」

「あぁ、さっきのかなりウザかったもんな」

「・・・・・・どう言う事?」

クラス替え表をすべて見終わったのか、晴美私の方に帰って来て、会話の内容を尋ねた。

「さっき、すげえやつらに囲まれて化粧濃いしやたら『長谷川君、何組ぃ〜?』とか」

「その人達なんか、芹沢達と同じクラスらしいよ」

「ゲッ!!」

チクリ・・・・

なぜか胸が痛む。

でも、浩介くんがその状況をジェスチャーで説明してくれて、とても判りやすく且つ、おもしろかった。

チクリ・・・
チクリ・・・

これなんだっけ?

もう忘れてしまったものだ。

思い出せない。






「ところでお2人さん、お昼迎えに行くけどどこで昼飯食う?」

浩介くんの提案に私たちはしばし悩む。

「天気が良いから花見気分で中庭」

即答したのは優希君だった。

「あぁ、まぁ、そうだな。決定」

私たちは時間を確認するとすでに頃合いはちょうど教室に入ってもいい時間。

私たちはそこで別れて自分達の教室へ向かった。









「芹沢さん、だよね?」

「はい」

始業式の面倒臭い行事も終わり、教室の机に座ると後ろから誰かに声をかけられた。

「やっぱり、・・・芹沢さんって、神藤くんの彼女だった人でしょ?」

「・・・・うん」

神藤―――カイ、私もうここの時間ではカイの彼女だった時間が過去のものだって思わされる。

まだ、私はカイのものだと思うのに、

「芹沢さん、今『長谷川 優希の彼女』なの?」

ドキン

「・・・・・え?」

「や、あのね、前のクラスで長谷川君に告った人がいて、その振られ方が
『今支えたい人がいるんだ』って言ってたから、どうなのかなって」

ズキン

「よく4人で集まってるでしょ?二人はカレカノだし、支えるって言ったら芹沢さんだよね?」

「ゴメン、よく・・・解らない。聞いた事無いの」

「芹沢」

申し訳無く聞いてきた子に謝るとタイミングよく噂の人物は現われた。

「優希君」

「迎え来た、行こう。浩介たちもう行って場所取りしてるから」




「ゴメンね」

彼女に一言告げて私は優希君と退室する。

このあとの状況を私は知らない。

ただ居心地のいいこの場所にいたいの。

ただ安らげるこの場所に私はとどまりたい

そう思う。


胸の意味の判らないこの疼きはなんだろう。

また戻り始めている?

あの頃に?

私は忘れては行けないのに、

忘れてはならないのに、

進みだす

時間も

私も
















update : 2006.03.07
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