home > original works > novels index > 第1部 過去を想う少女
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彼女の変化に気がついた。














私はどうやって日々を過ごせばいいのか、判らなくなってきている。

気が付けば、私の周りには友達と呼べる人がいない。

それもそのはず・・・

この生活からの孤独を救ってくれたのはいつも、

カイだった――――・・・・。

入学早々からの留学を決意したのは、お母さんの仕事の関係上。

お父さんは病死をして、母子家庭だったから私を一人残す事を躊躇った母は、

もともと私を一緒に連れていく予定だった。

私自身も日本以外の世界に憧れて、高校1年間はドイツへ飛んだ。

帰って来て見れば私は新入生と同じ立場ではなかったけれども、

その人達と同じだった。

1年間の留学は、この時とても深い溝を感じるようになった。

それから毎日、私は図書室へ篭り本を読みふける。

そこで出会ったのが、カイだった。

カイは生まれつき赤血球の形が三日月型のようになっている、

エジプト当たりに住んでいる人には良く見られる、ごく稀な血液の型を持っていた。

ボンベイタイプ

最近の医療で日本人にもその血液型を持つ人がいる事が証明されて、

その血液を持つ人が発祥する病気などはまだ解明されていない。

もともと、その人達は貧血症でカイもまた、大勢の人達から遠巻きにされていた。

カイの場合遠巻きより“憧れ”の部分が強いほど、

外見も良く、家柄も良くて、頭も良かった。

つまり、すべてがそろっていた。

私はそんな事も知らずカイと知り合って、そして引かれた。

よくカイが話していた『ユウキ』という人物は『長谷川 優希』だという事を最近感じ始めた。

近くに、居たんだと、知った。







「芹沢さん?」

急に話をかけられて、私は自分が空想に走っていたことに気がつく。

「あ、あなたは」

宮田さん、と私が言うと彼女は笑顔で答えて、私の据わっていた席の隣に腰掛けた。

「後姿で、何となく芹沢さんだと思って声、かけてみたの。」

「え?」

「カイくんの唯一の彼女だって、誰でも知ってる。
 でも、私の場合はとても憧れのカップルだったから。」

「憧れ?」

「私、カイくんの従姉なの。父が兄弟で家が近くなのと、カイくんの病状の見張り見たいな
 役なんだけど・・・ずっとね、二人を見てた。カイくん、あのルックスだったでしょ?
 モテモテのはずだったんだけど、病気の事があって、彼女作らなかったのに芹沢さんだけ、
 カイくんの彼女になれた。タダでさえ、芹沢さんとペアで美男美女で素敵で・・・」

「美男美女・・・ですか?」

「そうよ、知らないの?芹沢紫苑って言ったら、ウチの学年じゃ突如現われた、
 留学から帰ってきた大和撫子なんだから。」

・・・・宮田さんの個性が、だんだん出てきたの。

カイ、どうして教えてくれなかったんだろう?

彼女の話を聞いていると、自然と笑みが零れてきて彼女なら、

私の気持ちを良く理解してくれると思った。

「あ、笑ったわね?・・・・私ね、今日芹沢さんがうちのクラスに来て思ったの。
 長谷川ね、―――ううん、私達きっといい友達になれるって。」

一瞬躊躇った彼の名前には気になる。

でも彼女の口から放たれた言葉は今まででとても嬉しかった。

「そうね、私も・・・・今思ったところ。」

そう答えるとやっぱり彼女は笑顔で私を見て手を差し出してきた。

「これからよろしく、紫苑。私のことは晴美って呼んでv」

「よろしく、晴美」

その手を交えて、私は一生の友達を抱えた喜びを知った。

きっと彼もカイもこんな気持ちで過ごしたんだろう。

なんだか、2人が羨ましく感じた。




学校生活はクラスが違う私達だけど、よく行き来をして

一緒に遊んだりお泊りしたり、十年来の友達のようになった。

年明けも2人で晴美の家で過ごし、初詣にも行った。

コタツでみかんなんて定番な格好でいると晴美急に話し出した。

「私思うんだけどさ紫苑が初めてうちのクラスに来た時、長谷川を呼んだでしょ?」

「うん」

「その時ふと感じたんだけど、長谷川は・・・・」

「優希君がどうかしたの?」

この時の私は晴美との親交を交えると共に彼とも仲良くなっていた。

今では晴美の彼氏の浩介くんを交え、4人で過ごす事が多い。

「・・・・・やっぱり私の勘違いだと思うから、やめとくv」

「気になるじゃない!」

「い・い・の!」

この時晴美は何を思ったのか知らないけれど、あとになって見れば

私たちの将来の事を言っていたのかもしれない。

「ところでさ、まだ一周忌も経ってないけど紫苑は・・・カイくんの事どう思ってるの?」

きっと誰もが聞きたくて、聞けない言葉を晴美は容易く口に出して見る。

私は言っとき俯いて見せると、今思っている事をすべてはいて見せた。



「私の中で、カイはいつも勇気をくれる大事な人。一生忘れられない人。

 運命の時の中で“愛した人”。カイはね、病室で『忘れていいよ』って言った。

 でも、忘れることは出来ないの。忘れてしまったら、優希君が言ったこと、

 『カイが生きた証』がこの世から消えるの。それはダメなの。出来ないの。

 私ね、もともと自分の運命が『見送る側』だって知ってる。

 私はいつも、『片翼』なんだって――――・・・・」

求めても、見送らなければならない私の運命のどこに、

見送らない人がいるのだろう。

心地良い彼の場所はきっと他の人のものになってしまうはずだ。

誰にでも好かれる彼だから、

「紫苑・・・やっぱりさっき言いかけたこと言うわ。長谷川は紫苑の事好きよ。目を見れば判る。

 私だって伊達にカイくんと紫苑の事見てない。」

「そんなこと無いよ、優希君はきっと私のことを同情してるだけだよ。」




否定した彼の気持ち。

嘘をついた私の気持ち。


どちらが一体正しいの?他にも答えはあるの?

私は恐れたんだ。

安らげる、『長谷川 優希』という存在を否定しようとしていた。

離す事も出来ないのに・・・・・・・

















update : 2006.03.07
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