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ニュートンの法則 03




 あたしは苦笑いで答えると、諒君は何かを考えるかのように、あたしのほうを見ていた。


『じゃぁさ、俺コウちゃんのこと、≪華月≫って呼んで良い?』


 まっすぐな諒君の瞳が、真剣に訴えていた。

 
 あたしは一瞬のこと過ぎて、訳も分からずに

 どくん、と大きく鳴り響いた音を聞いていた。



 
3.「動悸」がするその理由



「えっと、・・・・」

 あたしは頭の中を整理するために、目を泳がせながら諒君を見つめた。


「≪華月≫が嫌なら、『コウ』って呼び捨てで呼んでも良い?」

 首を傾げられあたしの目を覗いてきたそのしぐさに、またも

 どくん、

 と、大きく心臓の音が鳴る。
 あたし、どうしちゃったんだろう?なんで、胸がドキドキするんだろう?

「や、その、えっと・・・・」

 戸惑って慌てて顔を伏せると、諒君は少し苦笑いをして言った。

「返事、急がないから、ゆっくり考えて良いよ」


 それじゃ、遅れちゃうから行こっか、とあたしの目の前を諒君が通り過ぎていくのを見ると、あたしは無意識に諒君の服の裾を掴んで止めた。

「え?」

 ぐいっと後ろに引かれた諒君は驚いたように、あたしの方に向き直るとあたしの方と服の裾を交互に見合わせた。

「・・・・良いよ」
「コウちゃん?」
「名前、呼んで、いい」

 途切れ途切れの言葉を諒君に向かって発すると、あたしは皐月の元へと駆け足で近寄った。

 皐月の傍に行くと、呼吸は乱れていて、相当焦っていたんだなって自分でも分かった。

「どうしたの、遅かったわね?」
「え、う、うん。忘れ物取りに行ってた」
「そう?『忘れ物』見つかったの?」
「・・・」

 忘れ物とあたしはとっさの嘘をついたけれど、何だか皐月には見破られてる気がした。
 だからだろうか。

 あたしの言った忘れ物と皐月の言った『忘れ物』のニュアンスが違うように聞こえるのは・・・。

 あたしは返事をせずに皐月の腕にへばり付いて見上げると、皐月はただ笑って、「見つかったなら別に良いのよ」とあたしに言った。


「おい、サー。あんまレズんなよ。後ろが怖いから」
「え?」

 突然聞こえたのは、ええっと、皐月の幼馴染の・・・・

「うるさいわよ、ゴン」
「ゴンゆーなっ!」

 そうそう、剛君だ。皐月の彼氏の弟さん。カラオケに行く途中で聞いたんだけど、皐月の彼氏さんが、「合コン反対」って言ってたんだって。

 でも、剛君が皐月に悪い虫撃退役に任命されて、今日の合コンが成立したらしいけど、「そうなるんだったらやらなければ良いのに・・・」って言うのがあたしの感想。


「だとよ、諒。だから静かにキレんな。怖いから」
「?」

 あたしは訳も分からず、掴まった腕の先の皐月の顔を見上げると、何だか誇らしげに・・・・いつの間にかみんなに追いついていた諒君の顔を見ていた。

(・・・どういう関係なんだろう?)

「幼馴染パート3よ」
「そうなの?」
「ただし、今日初めてあたしが勝ったくらい。アイツは完璧でムカつくのよ」


 ふーん、やっぱりすごいんだなぁ。とあたしは感心しながら、再度諒君を見ると今度は、あたしの方を見ていて、また目が合って微笑まれた。

 うっ・・・。また動悸が激しいんでございますが・・・。

 そしてあたしは皐月の家に着くまで、この動悸の原因について考えていた。






 それから月曜日になって、学校の日。
 夏実、理奈、皐月と固まって土曜日の話をしていた。

「土曜日は皐月さんにすっかり騙されましたよ」

 とほほ・・・。とあたしが言うと理奈と夏実は笑みを浮かべながら、「作戦成功じゃん」と皐月に向かっていった。

「この位の努力しないと、あんたホント奥手だから」

 と皐月はやれやれよ言うように言った。すると突然、あたしの携帯が鳴り出して、音楽からするに・・・・メールの方だった。

「あれ、メールだ」

 あたしは自分の携帯を取り出して、それを開くと諒君からのメールだった。


--Date:2008.xx.xx 12:45
--from:高見 諒
--件名:no title
-----------------------

 今日帰り、時間ある?

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 突然のメール(や、突然で当たり前なんだけど;)でそれを開いたまま固まっていると、皐月や理奈が「どうしたの?」と尋ねてきた。

 あたしは慌てて「なんでもない」というと、そのメールに返信をして『時間あります。』というメッセージだけを載せて送った。
 それからあたしは携帯を鞄の中に直して、すぐに諒君からの返信が来るなんて思わなかった。


 あたしは携帯を直しながら、何だろうと思う反面、今日も会えるという嬉しさを感じていた。

 ただ、どうして嬉しいのかは、わからない。

 何となく、心が温まるのは感じていはいるけれど。



 終礼が終わって帰ろうとしたとき、鞄の中の携帯を開くと、またメールが2件来ているのに気がついた。


--Date:2008.xx.xx 12:48
--from:高見 諒
--件名:Re:Re:
-----------------------

 じゃ、迎え行く。

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--Date:2008.xx.xx 16:13
--from:高見 諒
--件名:Re:Re:
-----------------------

 校門近くの喫茶店にいる。

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(ええっ!?)

 あたしはそれを見た瞬間に焦りを感じた。

「メール返信してないよぉ・・・」

 あたしはただ、返信し損ねているメールに諒君への罪悪感が募った。




 急いで、教室を出ようとすると皐月たちに呼び止められた。

「コウ、一緒かえる?今から駅前で遊ぶんだけど」
「ゴメン、用事があるの」

 家の方角が、皐月たちとは別々だから、いつも一緒には帰らないんだけど、時々こうやってあたしを誘ってくれる。

 けれどこのときは、本当に焦っていたから、「そっかぁ」なんて、後ろの方で言われながら、あたしは急いで靴を履いて、校門を走り抜けた。

 目的の喫茶店は校門を出てから、5分のところにある。
 明るいご夫婦が経営してて、とてもケーキが美味しいお店。
 コーヒーが苦手なあたしだけど、ここはコーヒーだけじゃなくて、紅茶だって絶品なの。

 あたしは慌ててそのお店に入ると、壁側の席のちょっと奥ばったところに諒君はいた。

「お、遅れて、ごめんなさいっ!」

 あたしは本を読んでいた諒君の傍へいくと、すぐに手を合わせて謝った。

「・・・」

 何も言わない諒君に恐れを感じて、恐る恐る目を開けると、諒君は微笑みながら、あたしを見ていた。

「・・・・諒く、ん?」

 あたしが諒君の名前を呼んで見ると諒君はちょっと驚いた顔をしてみたけど、すぐに笑顔になった。

「来てくれて良かった」

 嬉しそうに彼は、あたしにそういうと、あたしに向かい側の席を指して座るように施した。

 あたしは感謝しながら、席に座ると諒君の顔を見ながら不思議に思った。

 何で彼は、嬉しそうな顔をしているんだろう、って。

「・・・今日ね、昼休みにメールくれたでしょ?そのあとね、携帯・・・鞄になおしちゃって、メールの返信見てなかったの。ごめんなさい」

「あぁ、あれは別に良いよ。俺が勝手なことをしたんだし。それに、今はこうして華月は来てくれたじゃん」


 (≪華月≫って・・・。呼ばれなれてないよぅ)

 なんて思うあたしが分かったのか、諒君はまた苦笑いをしてあたしの方を見た。

「今日はサーと一緒じゃないんだ」
「うん、帰り逆方向だから。一人で帰ってる」
「いつもそうなの?」
「そう。一度ね、誘ってみたの。次から『恐れ多いから。』って言われちゃって」
「・・・・サーとは別の子?」
「そうだけど?」

 ・・・・なんでそんなこと聞くんだろう?あたしは頭を捻ると、諒君も頭を捻っちゃって、あたしたちは互いに頭を捻るとても笑える光景。

「さすが、ABってだけあるな」
「え?」
「主語がない」
「うん?」

 あたしは諒君の方を見ると、諒君は「うーん」と言いながら何かを考えているようだった。

「弟もね、実は華月と同じAB型でさ、言動が同じだから・・・・」

 な、何か、ぶつぶつ呟いてるぞ?

「華月さ、サーとかに何言ってるのか『よく分からんぞ』って言われない?」
「・・・・言われるかも」

 あたしは、よく皐月から「何言ってるの?」と聞かれることがある。それを思い出すと、あたしの言ってることの何がおかしいのかが分からず、小さく呟いてみた。

 でも、諒君は身を乗り出して、あたしの方に顔を近づけると、「でも、華月は面白いね。小っさくて、コロコロ転がってそうだよね」なんていって見せた。

「え!? 何その例え!?」
「小動物みたいで」
「小動物?・・・・まさしく人間扱いじゃない・・・・」

 まさか会って2回目の人に、そんなことを言われるなんて思ってもいないあたしは、さり気なく傷ついた。

「・・・・・・・そう言うところが、可愛いなって、初めて会った時に思った」
「?」

 少し間を置いて発した諒君の言葉が、何だか特別に聞こえた気がした。

 そして目が合うたびに、心臓がキューって絞まるような感じもして、あたしどうしちゃったんだろうと頭の隅で、本気で考えた。



 これは何なのでしょうか、皐月さん。




update : 2008.01.30
reupdate: 2010.09.11

加筆修正済 連載期間 2008.01.25〜
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