ニュートンの法則 02
恋愛の大切さも分からずに、あたしは一人を望んだ。
だって一人は楽だもの。
一人になれば、傷つけられることはまず無いから。
淡い期待を胸に、一生懸命頑張った幼いころ。
振り向いて貰えないと分かったとき、
何もかもがどうでも良くなった。
2.「恋愛」って何さ?
事件が起きた。
あたしは今、初めての合コンに連れられて、場の雰囲気を掴むのに冷や汗をたらし続けた。
事の起こりは皐月にだけ話した内容だった。
恋愛なんか関係ねぇ!!
自分が楽しければ、それは青春!!
大体、恋愛のどこが楽しいのよ、って内容。
そしたら、皐月は私の将来を軽く心配したんだろうね。
こんなあたしに言ったの。
「お試しの恋愛でもしてみたらいいじゃない」って。
これが始まり。
その日から約2週間が過ぎた。
あたしは、理奈と夏実がセッティングしようとした合コンを、ことごとく断ってやった。
「合コン?興味なぁぁい」……例えばこんな風に。
普通なら、こんな態度とったら確実に友達なくすと思うのよ、あたし。
でもね、あたしはここで気づくべきだった!
これは皐月が考えた罠だったってこと・・・・。
皐月は理奈と夏実を使って、あたしがどういう風に反応するかを考慮した上で、確実にあたしを合コンへ連れて行く手はずを練っていた。
まずは、あたしは皐月を確実に信頼している。
次に、「合コン」「男」「飲み会」って言葉には反応する。
最後に、理奈と夏実は合コンに誘ってくるんだ、と警戒を覚えさせておいて おく。
すべてが一本の線で結ばれたとき、あたしは心の底から「騙されたぁぁ」って叫んだわよ。
皐月は確信犯。 あたしを誘う手口も巧妙。
皐月が、珍しく「土曜日泊まりに来ない?」と誘ったから、あたしは忠犬並みに「行くっ!!」と即答したの。
それで、土曜日に最寄り駅で待ち合わせして、皐月と出会った瞬間の笑みが、今でも忘れられない。
・・・・・してやったり。( ̄ー+ ̄)
この顔文字が一番合うわね。
あたしが回想を終えて、現実に意識を戻すと、飲み屋のテーブル席に男女4人ずつ。
気がつけばなぜか、みんな何も食べずにあたしに注目をしていた。
「ほら、コウの順番だよ」
「え?」
「自・己・紹・介!」
「あぁ、ごめん」
「とりあえず、名前、あだ名、趣味、血液型言ってね」
皐月は、あたしの顔を見ながら今の現状を手短に説明してくれた。
「えーっと、紅 華月(くれない かづき)です。趣味は〜散歩。血液型はAB型。あだ名は、さっき聞いたと思うけど、『コウ』。よろしく」
あたしは前を見ずに自分の紹介をしていく。
ただひたすら、男の子を見ないようにしていた。
だって、視線が痛いから。
目が合ったら、怖いから。
もし、「あの視線」にぶち当たってしまったら・・・・。
両親のような冷たい、あの視線があたしに向けられていたら・・・・。
そう考えると、視線は一向に上げられなかった。
隣で理奈と夏実中心に盛り上がるその反面、あたしは黙々と運ばれてきた料理を食べていた。
だけど、いまいち、話に乗れないのよね・・・・。
そうこうしているうちに、とうとう2次会のカラオケまで来てしまった。
あたしの場合、カラオケって歌うより、人のを聞くほうが好きなのよね。
そう思って、おつまみを食べながら、今理奈が熱唱している曲の画面を見ようと顔を上げたら、一人の男の子とあたしの視線がぶち当たった。
U字型の席に、あたしは丁度ボックス部屋の一番奥の席に、おつまみ料理を固めてむさぼっているんだけど、その男の子は左側のテレビに近い席に座っていてあたしのほうをじっと見ていた。
あたし目が悪いから、暗いボックスの中では人の顔全然見えないけど、テレビの光に照らされた、彼の顔ははっきり見えた。
なぜか・・・・。
そんで、彼はあたしと目が合ったのが分かると、一番端の席から男の子たちを掻き分けて、あたしの方へ寄って来た。
あたしはその行動に驚いて、「ええっ」と内心うろたえた。
(何で、こっち来んのぉ〜?)
内心冷や冷やのあたしは、彼の視線に気づかなかった振りをして、上げた視線を元の位置に戻すとポテトを口に入れた。
「ねぇ、隣座っていい?」
「え?」
理奈から選手変更。男の子の一人にマイクが手渡ったのか、音楽は一気にロック調。
部屋の中は一気にビートが聞きだして、ガンガンと音が鳴り出した。
あたしは隣にやってきた彼の声に反応して、視線を上げるとぼやけていた先ほどの視界が一気に広がった。
あたしの傍に来たのはまるで王子様のような男の子。
あたしは彼の問いに答えずにいると、彼は苦笑いをしてもう一度あたしに言った。
「隣に座ってもいい?」
「あ、どうぞ」
思わず、右に寄って席を空けると、彼は嬉しそうにあたしの左側に座った。
「『コウ』ちゃん、だったよね?」
「うん。えっと・・・・?」
「もしかして、覚えてない?飲み屋で自己紹介したのに」
あたしのあだ名を彼が呼んだから、あたしも彼の名前を呼ぼうと思ったんだけど、あれれ?あたし、彼の名前をまったく覚えてなかった。
いや、一次会での自己紹介すら聞いてなかったのよね。
あたしが考えている間に、彼はあたしの反応を見て、まるで「仕方ないなぁ」と言うように、笑うともう一度あたしに名前を教えてくれた。
「俺の名前、諒。高見 諒(たかみ りょう)ね。篠波(しのなみ)学園2年だよ。血液型はA型。覚えてね」
「あ、うん。・・・覚えた」
あたしは彼、諒君の紹介を受けて、落ち着き無く自分のジュースを抱えながら、心臓を早くしていた。
諒君はさっきも言ったけど、容姿は王子様。
髪は珍しく染めてなくて短髪。整った眉と切れ長の目、高い鼻に、薄い唇。
顎は細くて、結構もてそうな顔立ちですよ。
・・・・うーん。
そんな男の子が何で、あたしの近くに来たんだろう?
あたしは頭の中で考えながら、グラスの氷をストローで回し始めた。
すると彼はあたしのほうに向き直って、下を向いたあたしの顔を覗くように、首をたれて言った。
「コウちゃんさ、今何で俺がここに来たか考えてるでしょ?」
「・・・・え、何で分かるの?」
「なんかね、顔に書いてあるよ。『どうしてっ!?』って」
「ええっ!!」
「ん〜、俺の分析から行くと、コウちゃん一人っ子でしょ」
「うわっ、当たってる・・・」
諒君は、あたしの反応を見ると楽しそうに笑いながら、あたしの顔を見ていた。
「一人で考え込むからかな。俺はね、弟が一人いるんだ。3つ下のね」
「うん、何かお兄ちゃんっぽい感じがするね。・・・へぇ。と言うことは、中2?いいなぁ、中学生。一番楽しい時期だよね」
「まぁ、弟は友達とつるんでるのが楽しい時期だよね」
笑顔の諒君は自分のコップに手を伸ばして、口につけると少しだけ飲んで、またあたしのほうを見直した。
「コウちゃんの学校さ、藤代台って共学だよね?」
「うん、そうだよ。でも、あたしは特進文系だからどっちかって言うと、女子の比率が高い・・・・かな?」
「特進・・・バリバリの勉強漬けって感じか」
「え〜??でも、うちの学校よりも篠学の方がランク上じゃん」
「え〜??同じくらいじゃね?」
気がつけば、あたしは男の子と普通に話しをしていた。
苦手な男の子。
だけど、いつも感じる、威圧感。それは諒君からは感じなかった。
なぜ?どうして?
たぶん、その理由は諒君の瞳。
とても優しくて、温かい。
あたしは、諒君との話しに盛り上がり、刻々と時間が過ぎているのに気がつかなかった。
「すんませーん、もうそろそろカラオケ終了でーす」
突然聞こえた、皐月の終了のコール。
それを聴いた瞬間、花を咲かせたあたしたちの会話が閉じられることが残念に思った。
「残念。せっかく盛り上がってきたのに」
諒君がポツリとあたしに向かって言うと、あたしも諒君の顔を見てただ頷いた。
カラオケボックスの出口に向かって階段を降りていると、後ろから急に諒君に呼び止められた。
「コウちゃん、アドレス交換しよう。また今度さ、会って話そう?」
「え・・・・・うん」
突然の申し出に、あたしは戸惑ったけど、今までの時間を思い返せば、もう一度諒君ならこの時間以外にも会ってみたいと思った。
あたしはハンドバックから携帯を取り出すと、それを開いて操作した。
「Bluetoothできる?」
「あ、うん。ちょっと待って」
そう言って、あたしは携帯を操作してBluetoothを起動し、諒君の携帯へ向けると、諒君のも同じようにして出来るだけ携帯を近づけた。
そのとき、ちょっとだけ諒君の手があたしの手に触れた。 あたしは驚いて、ちょっとだけビクッと反応したと思う。
でも、諒君は気にせず、「受信できたよ」と言ってあたしにまた、温かい瞳を向けてくれた。
携帯画面に目を向けると諒君のアドレスが表示されていた。
「名字のクレナイって 『紅』の一文字だったんだ」
「え?何だと思ってたの?」
「ん〜、広島の呉市の呉に、内側の内だと思ってた。・・・あぁ、だから、『コウ』なんだ」
「うん、結構珍しいって言われるの」
「なかなか無い、苗字だよね。でもさ、名前『華月』も良いね。おしゃれ」
「ありがとう。でも、めちゃくちゃ、画数多いけどね」
あたしは苦笑いで答えると、諒君は何かを考えるかのように、あたしのほうを見ていた。
「じゃぁさ、俺コウちゃんのこと、『華月』って呼んで良い?」
まっすぐな諒君の瞳が、真剣に訴えていた。
update : 2008.01.26
reupdate:2010.09.11
加筆修正済 連載期間 2008.01.25〜
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