home > novel index > introduce > キラリ。第3部
明日。10


―――――二人でいる明日は何色なのか


 どうやら、俺が美羽さんを探しにフランスへ行っていた間、テレビに出ない俺
の日々が過ぎていく。
 スキャンダル以降の仕事は全てキャンセルを出しているため、マスコミは「雲
隠れ」だと思ったらしいが、雑誌による激しい中傷においてもテレビによるワイ
ドショーにおいても、うんともスンとも言わぬ俺の反応に対して言葉を求めたが
当の本人が日本にいないことにやっと気がついたらしい。


 俺はその時、やっと美羽に出会えた頃だった。


 3か月に及ぶ美羽の語学研修という名目上の仕事も終えて、ともに日本に帰国
した。
 当初の予定では直輝も一緒に帰国するはずだったが、アパートの引き払いもろ
もろの手続きで、直輝だけ1週間遅れての帰国になってしまった。

 空港に迎えに来ていた高原さんが満面の笑みで俺らを迎えてくれた。

「お帰り。」
「ただいまです。」
「お久しぶりですね、北条さん。」
「はい。ご無沙汰しております。このたびはご迷惑をおかけして申し訳ありませ
んでした。」

 深々とお辞儀をする美羽さんを横目に、俺は真っすぐ高原さんを見返していっ
た。

「高原さん、あのさ俺・・・・もう、覚悟できたから。」
「??」
「真正面から、美羽さん守りたいから・・・・覚悟、決めてきた。」

 伊織の強い意思表示に高原は一瞬何のことかと思ったが、横にいる美羽に目線
を向けると何のことか瞬時に理解した。

「あぁ、そうか。もう、大丈夫なんだな。」

 高原にとってはうれしい門出である。

「じゃぁ早速、社長からの試練こなしてもらおうじゃないか。」

 そう、笑みを浮かべて伊織に言うと、伊織は素直に顔を縦に振った。




―――『IOR帰国!!』

 雑誌等での報道がなされたのは帰国して2日もしないうちだった。

 その間に俺はできる限りやり残していた仕事を成し遂げ、マスコミ各社にスキ
ャンダルが嘘であること、そして、自身にはれっきとした婚約者がいることを正
式に発表した。

 その発表を受け、マスコミは俺に対して会見を求めてきた。

 俺は、それを会社で報告を受け、即効美羽さんに話を持ちかけた。


「もう、隠さないって決めた。美羽を失わない方法。」
「うん。」

 あれから美羽さんは俺のマンションで一緒に暮らすことになった。
 帰国してすぐ部屋を探すために、ホテルを借りていたが、俺が美羽さんと一緒
にいたいということを言うと、美羽さんは恥ずかしがりながらもうなずいて了承
してくれた。

 静まり返った俺の部屋のリビングで、ソファーの上で手をつなぎながら、そっ
と2人で寄り添った。

 隣のぬくもりがこんなに懐かしくて、こんなに愛しくて・・・・。

 俺は気づくのが遅かったのかもしれない。


 本当に必要なのは、愛を語ることだけではなくて、愛に乗じた戯れでもなくて
、このように二人より添うって事だったのかも知れない。


「今日会社でね、八重に言われたの。」
「何て??」

 八重…俺に美羽さんの居場所を教えてくれた美羽さんの親友。

「『本当は、芸能人と付き合うってことは賛成できないの。でも…』」

―――・・・美羽が幸せなら私はそれを応援するわ。


 結局八重自身も美羽には甘いのだろう。

 すべてが、俺らを祝福していく。




会見にて―――

「彼女は一般人です。俺はIORという存在を知らない彼女に出会えたからこそ、
日常では『俺』という人間でいれた。そして、音楽に対してもおれの音を聞いて
くれる彼女だからこそ今までやってこれました。
 スキャンダルの報道で一番彼女を苦しめた俺には、もう音楽をする資格などな
いと思いました。
 一度、音楽を捨てかけた俺が、またこうして皆さんの前に立てるのも彼女のお
かげです。
 彼女が俺に音楽を捨てるなと言ってくれました。俺はその事に大いに感謝しま
す。そして、彼女と共に音楽の人生を歩みます。」


 IORの緊急記者会見はテレビ史上最高の視聴率を叩き出し、そして、伊織の盛
大なる結婚宣言もにぎわせた。

 一躍噂の的となったシンデレラガールの美羽は、その姿をテレビに晒す事は無
く、一般人として紹介されるだけで中傷誹謗等はなく、逆に祝福の言葉がたくさ
ん送られたものだった。




 そして、月日は流れ・・・

 2人は、真っ白な建物にある鐘の鳴り響く場所にいた。


「あのね、伊織くん。」
「ん??」

 風の吹きぬける丘の上で、手をつないでただただ、丘下に広がる風景を見なが
ら話していた。


「もし、私に何か起きても、伊織くんはずっと私の隣にいてくれる??」
「うん。ずっと美羽の隣にいるよ。美羽はどうなの??」

「・・・そうね。」
「何その間。」

 伊織は一人不安そうに苦笑しながら美羽を見下ろした。
 すると美羽はそっと自分の左手をお腹に当て、伊織を見上げた。

「ちょっとの間は、慌ただしいかもなぁって思って。」

 意地悪そうに、
 何かの意をこめるように伊織を言うと、
 伊織は美羽のその目を見てハッとした。

「・・・・・もしかして、美羽・・・。」

「最近ね、調子悪いなぁって思ったら、やっぱりって。」


 嬉しそうに言う彼女の表情は、どこか女性らしくそしてまた強いものになって
いた。
 感動のあまり言葉にならない伊織はただただ、

 彼女を愛しむように抱きしめた。




 そして、

「ずっと、俺たちの手で明日を築いていこう。」





「はい。」





 帰国後、伊織が発表した新曲は、世界の有名シンガーがカバーをする位に大ヒ
ットを巻き起こし、誰人も感動で涙し、歌われ続けた。



 それは、とても優しい愛の歌。

 二人で築く明日への架け橋。










FIN.




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長年の愛読ありがとうございました。



update : 2009.03.10
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