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後編



俺は、どうして君に心を奪われるんだろう?











――――――Oh, mi Querido!!!










夏音は何が起きたのかと考えているうちに、真っ暗だった目の前に光が差したことに気が付いた。

「・・・・・」
「・・・っ」

余りにも唐突だったキス。
暁は急に自分が起こした行動に自分でビックリしていた。

「ゴメン」

反射的に出た言葉が空しく空気に消えていく。
それに反応した夏音は声の主の方を見て、自体を少しずつ理解していった。

「キス・・・するつもりは無くて、でもごめん・・・・」

手を口に添えて、夏音はだんだんと瞳をうるませていく事が暁には解っていた。

「ど・・・・して?」

少し震える、夏音がやっと声に出せた言葉だった。
夏音の問いに暁は少し引け目を感じる。
どうして自分が彼女にキスをしたのかもさえ解ってもいない。
どうして自分が、感謝の言葉以外の言葉を期待していたのかさえもわからない。
暁はその葛藤した心の中で、一番に理解した事は、

好き

その一言を彼女に期待していたのではないかという事だった。
しかし、今更キスした手前スキだという事を口にする事すら罪悪感を感じる。
暁はそう思い、俯いて「ごめん」の一言を繰り返していた。



「謝るのはもう、いいよ」
「・・・っ」
「キスもいいの」
「・・・・」
「ずっと、高遠君が好きだったから」
「え?」
「コート、貸してくれたときからずっと気になってて、見てるだけで胸がドキドキして、気が付いたら目でずっと追ってて、たぶんこれって好きって気持ちなんだなって。本当は、コート返せたらスキって言おうって決めてたけど」


コート返せなかったし。と呟く夏音は頬を薄っすら紅く染めて俯いた。
その反対に、夏音から言われた言葉の処理に暁は一時戸惑ってしまう。

(今、何て言われた?)

暁の中では思っても見なかった事態が起きていたからだった。




中学3年 冬 ――――――




「あ〜、清掃活動とか超たりぃし」
「でも、半ドンだから別にいくね?授業の変わりに掃除は辛いけど」
「そうそう、休みだっただら遊びの約束とか前日にしないとイケねぇけどな!!」
「なぁ、暁もそう思わね?」
「あぁ、買い食いとか出来るしな」
「あはは。それは毎日してんじゃん、俺ら!!」

この日は毎月恒例の土曜日を使った清掃活動が行われていた。
暁のクラスは、担任がそれぞれグループごとに割り振る為仲良しグループでの清掃が主立っていた。
その中でも、4組のかしらグループに属する、暁達は気ままで端から見れば遊びに見られがちではあるがしっかり手を動かすということで担任からの信頼があった。

「よ〜、いつもいつもお元気なこって」

少しだるさを感じる声の主、高見 誠は3年次のクラスは違ったが、昨年までずっとクラスが同じでありずっと仲良しグループの一人である。


「あ、誠!!」
「よーっす」
「あれ、2組ってこの辺だっけ?」
「あ〜うん、この辺。って言っても、あそこの・・・・橘さんたちが作業してるところまで」
「へ〜・・・・・って、橘さんってアノ橘さん?」
「うん、その橘さん」

誠とグループの一人津川 徹平は通じ合った風に会話を繰り返し「へぇ、ほぉ」と何やらニヤニヤしながら暁の方を見つめた。

「何だよ、ニヤニヤしやがって気持ちワリィな」

突然見つめられた暁は、眉を寄せて徹平と誠を睨みつけた。

「いや?1学期のさ、修学旅行のこと思い出しちゃって」
「あ〜暴露大会な!!」
「まさか、暁がねぇ〜とは思ってたけど」

さらにニタニタと笑いはじめる二人に加勢し、残りの二人も話しに入ってくる。

「・・・・ナンだよ」
「こーんな、怖い顔しててもさ俺らが羨ましがるほど顔は整ってるし?性格は恥ずかしがりやっていうの知ってるから、ナンで怖い顔なのかも知ってるし?」
「『漢』だねぇ〜って」
「だから何だよ」
「「「「暁が橘さんを好きだなんて」」」」
「!!」

暁は修学旅行の時、他のクラスに行ってしまった誠を交え、寝室で行われた暴露大会で、惜しくもジャンケンゲームに負け、今気になっている子もしくは好きな子のことについて暴露をしなければいけなくなった。
その時は報道陣のように質問攻めに遭い、何とかかんとかその場をやり過ごしていたが、結局好きな子の名前とクラスを言わなければならなくなった。

「どういった経緯で好きになったのか、確か聞けなかったなぁ」
「あ〜あ、俺も学年一美少女橘さん狙ってたのになぁ」
「幼馴染の暁に貸し1個あるよなぁ」
「言わないと俺、橘さんと同じクラスだからいつ口滑らせるかわかんないしなぁ」

「い、いいだろ、別に」

そう、言葉を逃れた瞬間だった。
突如聞こえるくしゃみの音に何となく耳を寄せた。

「寒いねぇ〜てか、夏音。そんな薄着で大丈夫なの?」
「んーどうだろう?」

何気ない会話だったと思う。
ただ、顔をそちらに向けると、たった一人誠が口を開いた。

「あ〜、橘さん大丈夫かな?昨日風邪で休んでたんだよねぇ」
「・・・・早く言えよっ」

おそらく誠のみ気が付いただろう。
この時夏音が寒い日にもかかわらず、コートを着ずに作業をしている事を暁が気にかけていたことを。
そして、暁は一人夏音のほうへ足を進めて近づいていくのを徹平達が気に留めたが、毟り取った草たちをビニールにまとめる事に集中していたため、余り注目していなかった。


「夏音、やっぱりなんか着てきた方がいいって、私のジャージ貸すよ?」
「あぁ〜いいのいいの、大丈夫だから」
「とかいいながら、随分震えてるじゃん!!」
「あーうん、寒い。・・・やっぱ何か借りれるかなぁ?後30分は耐えられない」
「じゃぁ私、先生に言って何か上着借りてくるから、ちょっとそこで待ってて」

そのやり取りを見ていた暁は今夏音が欲しいのはあったかい上着だということを知った。
それに押され、暁は自分のコートを脱ぐと里子の後姿を見送り作業に戻ろうかとする夏音の背中にコートを押しつけた。

「え?」

急に差し出されたコートを前に、夏音は暁を見つめた。

「着てろよ。昨日まで風邪だったんだろ?ぶり返すとやべぇから着てろよ」
「え、・・・・でも」
「俺はいいから。ん」

半ば無理やりにコートを差し出すと夏音はそれを受け取り、やはり暁を見ていた。
暁はコートを渡すと、颯爽と誠たちのいる場所へ帰っていった。

それはただの接点でのきっかけにしかならなかった。

それから何日待っても夏音からコートを返されることはなかった。
ただそれは、きっかけがつかめなかった事にもよるが、こうきっかけが無いとさすがの暁も諦めに達していた。
どうにかして、彼女に近づきたいと思い、誠に彼女の志望校を聞いて先生の反対を押しきってまでも一緒の学校へ進学したかった。
その学校のレベルは仲良しの4人も行ける範囲内で丁度よく、俺の場合始めから高校なんてどうでもよかった。いいところに行ければいいのは、大学だったから。
そして卒業式の日、どうしても彼女と一回話したいと努力した。
しかし、ほとんどの時間が同じ学年の女子に捕まり、告白を受けては断りと繰り返し、結局話す機会など無い状況だった。

そして今日、あれほど学校で会えなかったのに、偶然という形でチャンスが巡ってきた。






「私ね、コートを貸してくれたときから気になりだした。でもね、もっと前から高遠君のこと知ってた。本人に言うのもなんだけど、ちょっと顔が怖いなって、中2の時に思ってた。でも、その印象を崩した日があった。・・・・・高遠君は私と帰り道が同じだって知ってる?」
「え?」
「家の近くに空き地があるでしょ?今は、マンション築造計画の看板が立ってるけど・・・」
「あぁ、うん」
「一回ね、帰りの時間が一緒になってでも追い越すに追い越せなくてずっと、後をつける感じで家に帰ったの。その時にね、捨て犬がいて・・・・『よしよし』って言って撫でてる顔がとても柔らかくて、いつも見せない笑顔で・・・・それ見て急に胸がギュって。その時は信じられなかったけど、コート貸してくれた時に確信した。この人はすごく優しい人だって」

その言葉を言った夏音はとても嬉しそうな顔で暁を見つめていた。

「ずっと目で追ってるだけ。ずっと話してみたいって思ってた。だから、高見君に高遠君のことずっと聞いたりして、進学する学校も高遠君に合わせたかったの。でも、私と高遠君って差があり過ぎだったから結局諦めたんだけど、入学して来た時には正直驚いた。2ランクも志望校下げるとは思わなかったから」
「・・・・・俺も、橘と話したかったよ。話して、ずっと好きだって・・・・でも、順番バラバラでキスしちゃって」
「うそぉ」
「え?」
「ホント!?それ、ホント!?」
「え、どうし」
「高見君嘘ついた!!『暁は好きな子いるからねぇ〜』っていったぁ」

急に声を上げて喋り出す夏音に暁は戸惑いを感じた。

(誠、何言ったんだよ・・・・)

「この時間なら高見君バイトだよね!?私、文句言ってくる!!」
「え、待って」

走り出そうとした夏音を暁は腕を伸ばして、引き止める。
勢いのついた夏音はその力の引力に引っ張られて、暁の方へと倒れこんでしまう。

「イタタ・・・・」
「俺が好きなのは、橘 夏音だから。誠なんかに・・・文句とか・・言いに行くなよ」
「高遠・・君」




雨の音も気にならないくらい、二人の時間を過ごそう。
手を繋いで相々傘して、身体を引っ付けさせて、
お互いの時間を過ごさない?
今まで交わりがなかった分、
お互い好きだといいながら、
温かいキスで








好きという気持ちを伝えたい。





****************
何やら訳のわからん短編小説が出来てしまいました。
創作時間約3時間超ってところでしょうか。
最後のほうがゴタゴタしてしまって、あぁ自分って構成力がないなって思ってます。
書きたかったことは、書いたかな。
でも、満足には程遠いですね。頑張ります。

update : 2006.05.10
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