How can I make it up to you?
このような償い方しか、今の俺にはわからないから。
どうせなら、俺ごと、君の記憶から消してしまえばいい。
都合よく、俺は君の記憶から消え失せた。
過去の俺は君の記憶には残っていない。
そして、君ごと、キミの記憶から消えてしまうくらいに。
「ソフィーさん、俺、そっちに帰ってもいい?」
『・・・どうしてなの、優希。あれだけ、』
「守りたくなったんだ。俺の人生を通しても、彼女、紫苑の近くで、隣で同じ視線で一生を共にする事が出きる資格が欲しい。」
『私は基本的に反対なんてしないわ。でもね、優希。離れる事が一生を共にする手段ではない事に気づいて頂戴。紫苑だって、あなたの事が好き。それに答えてあげるくらいに。』
「わかってる。ソフィーさん、紫苑は乗り越えなきゃ行けないんだ。俺も一緒に乗り越えなきゃ、先なんて歩けないんだ。」
『ええ、わかってるわ。わかってる。手続きはしといてあげるから、・・・いつ帰ってくるの?』
「早くても来週かな。」
ここにいれる時間が短ければ短いほどいい。
そうすれば短い時間を大切に過ごす事が出きる。
目に焼き付ける時間が短いと、一瞬を大切にする。
人ってそういうものじゃないか。
カイがそうだったように。
今を焼きつけよう、この双方のレンズで、世界を。
帰国まであと、6日。
すべてが何の問題もなく過ぎていく。すべてが平穏に終わっていく。
一刻、一刻と俺の中の時計はその1秒を大切にするように過ぎていく。
「優希ぃ、ここの問題教えてくれ。」
突然俺は、浩介に頼まれて自分の選択していない生物の問題を解かされていた。3年のこの時期は教科書の内容もほぼ終わり、演習の時間に入る。
ほとんどは自習のような形でただただ問題を解く、つまらなくて辛い時間帯が続く。
「ここの問題は、RrYyの遺伝子の親を求める問題で、比率が1:3:3:1って言うのがわかってるわけだから、これを劣勢ホモの遺伝子とかけ合わせて『検定交雑』をする。そうすると、親が出てくるだろ?そして、この『組換え価』を求めるのはこの公式を使う。・・・・やって見ろ。」
「・・・・『検定交雑』ね、・・・・で出た値を公式に当てはめて・・・。あ〜・・・なるほどね。てか、お前ホント選択してねぇのによく解けるなぁ。」
「わかってないとさすがに俺の場合はヤバイからね。」
優希がそうはにかんで浩介に笑みを見せると、浩介はただ優希の顔を見つめて少し何か考えるようにして見つめてきた。
「優希は、芹沢さんどうするつもり?」
「どういう・・・・」
何の根拠も無い問いかけに優希の顔は固まった。
「俺が何も知らない奴だと思ってたのか?カイから、何も聞いてないとでも思ってたのか?」
「・・・」
「お前、「浩介」」
浩介が何かを言おうと口を開いた時に優希はその言葉を遮ろうと口を開いて、見つめ返した。
「浩介俺さ、来週からドイツへ行く事にした。」
「は?」
浩介は突然の発言に頭が一瞬ついていかなかった。
その事に優希は気づいていて、刹那浩介を笑うと手をポケットに入れ背もたれに寝んかかった。
「いくら日本で芹沢の記憶が戻るのを待っても、それがいつになるかわからないだろ?それなら、俺はドイツに行って、俺自身の問題を解決しに行く。」
「意味がわかんねぇ。」
浩介が頭を抱えて机に突っ伏すのを優希はみて思い出すようにしていって見せた。
「カイから聞いてるだろ?ここにいる芹沢は、ずっと俺が知っている紫苑じゃない。俺が芹沢の記憶を封印させた原因だって。」
「お前が・・・・?」
「芹沢の父親を俺のせいで死なせてしまった。」
本当は紫苑に話さなければならないことなのだろう。
紫苑は本当に俺を忘れてしまった。そして、自分さえも忘れてしまった。
以前の紫苑は活発で、負けず嫌いで、誠也さんに負けるのをいつも気にしては泣いていた。
今みたいに儚げに笑う事はなった。
「けど、俺は芹沢が大切だよ。だから、ドイツでどうしても確かめたい。」
「何を?」
「・・・・・俺も一部記憶が無いから。」
確かめたい。どうして俺が、日本へ来たいと焦がれたのか。
確かめたい。どうして、あの人が俺の目の前で死んでしまったのか。
暗い闇に一点の光を見つけるような思い。
きっとこの苦しみは克服する事ができる。そう、予感していた。
なぜだか、その一瞬芹沢の父親、高志さんの笑顔がふと脳裏をよぎっていった。
とても
とても
やさしい顔だったけれども・・・・・
※注意;『検定交雑』・・・親(P)未解遺伝子から作られた子(F1)雑種遺伝子(RrYy)に劣勢ホモ(rryy)をかけ合わせてその子(F2)からなる比率によりP遺伝子を解読する方法。