その気にさせて



 高校の入学式。
 あたしははクラスわけの掲示板に自分の名前を探しながら、歩いてた。
 とんっ
 前方不注意で、誰かにぶつかってしりもちをつく。
「っあ……ごめんなさいっ」
 言いながら顔を上げて、思わず視線を固定してしまった。
 なんて整った顔をした男の子なんだろう……?
 色白で少し色素の薄い、柔らかな顔立ちの彼は、だけどあたしを不機嫌に見下ろして、こう言った。
「どこ見て歩いてんだよ、ばぁかっ」
 あたしは目をぱちくりさせた。

 それが、あたし南波まどか(なんば まどか)と上滝郁巳(じょうたき いくみ)との、出会いだった。

「上滝……上滝郁巳?」
 出席を取ってた先生が顔を上げて、不在の机に顔をしかめた。
「またサボりか……南波、クラス委員。探して来てくれ」
「……はぁい」
 げっ!と声に出そうなのを堪えて、あたしは立ち上がった。
 クラス委員なんてやってるお陰で、しょっちゅう授業をサボる上滝郁巳の行き先が、最近読めるようになってきた。不本意だけど。
 天気のいい日は屋上。そうじゃなければ……。

 図書館の重い扉を開けると、奥の司書室から小さく話し声が聞こえる。
 やっぱりね。あたしはカウンターから、司書室に入った。
「すみません、上滝くんきてますか」
「って、いるって分かって来てんだろ、南波さん」
 くすくす笑いながら、司書の西園さんが言う。
「んだよクラス委員」
 缶コーヒーを飲んでいた上滝くんが、顔をしかめた。
「誰かさんがサボってるから、探しに来たんでしょ」
「んなもんほっとけよ」
「仕方ないでしょ。先生がそう言うんだから」
「探すふりしてお前もサボればいんだよ」
 そう言いながらコーヒーを飲み干すと、立ち上がる。
「んじゃあな、センセ」
「おう、またな」
 まったく……。
 さっさと司書室を出ていった上滝くんを追いかけようとしたあたしに、西園さんが声をかけた。
「まぁそうカリカリすんな。あいつはあいつなりに色々考えてんだから」
「……どう考えてるんですか?」
「色々だよ」
 笑ってタバコに火を付ける西園さんは、上滝くんと同じ部類の人間だと思う。だから、なんとなく苦手。

 ブレザーのボタンを全部外して、ネクタイは結んでない。シャツも上から二つ、ボタンを外して。
 だらけた恰好だけど、それが似合っちゃうのが、すごい。
 ポケットに手を入れて、上滝くんはゆっくりゆっくり、廊下を歩く。
 あたしは少し離れて、だけど彼が脱走しないように気を配りながら、同じ速度で歩いた。
「クラス委員も物好きだよなぁ」
「なにが」
「俺なんかに構ってるあたりが」
 ちらり、と視線をあたしに飛ばして、少し笑ったみたいだった。
 上滝くんは、学校でも有名な不良。不良ってのとは違うのかな。アウトロー?
 授業は、気に入らないと出ない。ケンカを売られたらきっちり買う。クラス行事とか一致団結が大嫌い。そのくせ、テストはいつも上位。
 うちのお兄ちゃん曰く、「簡単に言うと、ひねくれ者」。
 まぁでも、その気持ち、分からなくはない。
 あたしが一目見て思ったみたいに、上滝くんはとても綺麗な顔をしている。アイドルグループなんかメじゃないくらい。
 その顔が、彼にとってはコンプレックスなんだと思う。彼は顔に似合わず、とても骨太な性格をしていて、「女みたいな顔」とか「かわいい」とかいう言葉が大嫌いらしいから。
 だから、顔だけで全部判断するような周りに反発して、こんな行動をするんだと思う。
 それは同情の余地がある。かもしれないけど。
 あたしをこんな風に巻き込むのは、勘弁して欲しい。
 そんな事を考えながら、細身にしては広く感じる彼の背中を見つめて、教室まで歩いた。

「ねね、南波さん」
 休み時間声をかけられて、あたしは顔を上げた。同じクラスの、賑やかグループの子たち。
「今日の帰り、カラオケ行かない?」
「カラオケ……」
「っと、南波さん、カラオケとか、する?」
 あたしはちょっと苦笑いした。眼鏡なんかかけていつも本を読んでるせいか、あたしは周りからとても地味で優等生と思われてるらしい。同じ高校の普通科にいるお兄ちゃんのせいもあるかもしれないけど……でも、あたしはそんな良くできた子じゃないんだよね。
「カラオケくらい、普通にするよ?」
「っわっ!じゃあ行こう行こうっ」
「あたしなんか一緒に行って、いいの?」
「うん、是非是非ー」
「……うざい。邪魔」
 不機嫌な声が、彼女たちの後ろでして、彼女たちは慌てて身体をどけた。
「ごっごめんっ」
「邪魔っつってんだろ。そこ、俺の席」
 机にもたれていた女の子を睨み付ける上滝くんは、いつもに増して機嫌が悪い……。
 彼は、ルックスだけできゃいきゃい騒ぐ女の子も大嫌いらしく、とても硬派。入学当初はやっぱり騒がれたけど、今じゃ女の子達は怖がって近づくこともしない。
 そして、そんな彼があたしの隣の席であるせいで、あたしの周りにはあまり人が居ない。
 みんな今みたいに、彼が居ない時を狙って、あたしに声をかけてくれる始末で。
 とばっちりを食らってる気が、しないでもないんですけど。
「っあ、じゃあ南波さん、帰りにね」
「うん」
 彼女たちが退散すると、隣から、本当にうっとうしい、という感じのため息が聞こえた。
「……あんたが、ああいうタイプと付き合うとは思わなかった」
「は?それって上滝くんの嫌いな、偏見ってやつじゃない?」
 勿論嫌味。だから彼も、鋭い目であたしを睨んできた。
「……付き合うのは勝手だけど、俺に迷惑かかんねーように付き合ってくんね?」
「はいはい、すみませんでしたっ」
 あー……どうしてこんなけんか腰の会話になっちゃうんだろう。

 カラオケの帰り、同じ方向だという女の子二人が追いかけてきた。
「南波さん、一緒に帰ってもいーい?」
 断る理由もないから、あたしは頷いた。
「……南波さんって、すごいよねぇ」
「はい?」
「だって、上滝くんといつも対等に言い合いしてるでしょ。あたしたち彼と同じ中学だったんだけど、すごく恐くて、多分一度も口きいたことないもん」
「今も同じクラスだけどさぁ、同じ中学だったって、覚えてるかどうか妖しいもん」
 そ、そうなのかな……。自分では思わないんだけど……でも上滝くんと居る時間は多いし、最初ほど彼のことを恐いと思ってないのは確かかなぁ。
「だから、頑張ってねっ」
 って、はい?何が?
「あたし思うんだけど、上滝くんって、きっと南波さんのこと、気に入ってると思うんだ」
「は?え?どこをどう見たらそうなるのっ?」
「だって、南波さんが探しに行くと、ちゃんと授業に戻ってくるし」
 それは、居場所をあたしが分かってるからじゃない?
「なんだかんだ言って、南波さんの言うことだときくし」
 それは……そうなのかなぁ。
「南波さんとケンカしてると、上滝くん楽しそうだもんねーっ」
 ……最後のそれが、どう受け取っていいか微妙なんだけど。
「絶対!上滝くんに負けないでねーっ」
 って、どんなエールよそれ?って言葉を残して、彼女たちは帰っていった。
 上滝くんがあたしを好き?
 ……あり得ないでしょ。

 雨の日、廊下が濡れてて滑りやすいね、とか話しながら友達と歩いていたら。
 前方でサッカーしてるおバカな男子。
「ちょっとー、廊下でサッカーなんかしないでよねっ」
 友達が声をかけた。
「うわやべっ、クラス委員」て誰かが呟いた。
 いやいや、あたしは別に言いつけたりしないけどさ(笑)
 でも、廊下でサッカーはナイでしょ。
 その時、誰かが蹴りぞこなったサッカーボールが、あたしたちの方へ飛んできて、
「クラス委員、危ねっ!」
 男子が叫んだ。
 あたしは慌ててよけようとしたんだけど……濡れた廊下に足を取られて、転んでしまった。
「っまどかっ?」
 ボールがぶつかる!ってあたしは思わず目を閉じた。
 ボスッ
 ……でも、あたしの身体に触れたのはボールじゃなくて、誰かの身体だった。
 え……?
 目を開けると、あたしをかばうみたいにしてしゃがんでる上滝くん。
「じょ……」
「あぶねーなぁお前ら」
 低い声に、男子生徒がごにょごにょ、「悪い」とか「ごめん」とか呟く。
「あーあ。このボール濡れてんじゃねーか。ブレザー汚れたしっ」
 上滝くんは顔をしかめて立ち上がると、あたしを見下ろした。
「あんたもどんくさいなぁ」
「なっ……」
 って、助けて貰っといて、文句言う立場じゃないわ……。
「ありがとう」と言おうとしたのに、上滝くんはさっさと歩き出してしまって……。
「……まどか」
「っえ?あっ」
「追いかけた方がよくない?」
「へ?」
 友達の言葉に、あたしはきょとん、とした。
「だって上滝くん、あんたにボール飛んでくるの見て、教室から走ってきてくれたんだよ」
 え……?

 雨だからきっと屋上にはいかない。
 図書館なのかな……って探す視界に、上滝くんが飛び込んできた。
「上滝くんっ」
「んだよ」
 うっとうしそうに振り返る。
「あのっ……助けてくれて、ありがと……」
 そんなことかよ。
 顔をしかめて、彼はまた歩き出した。
「あのっ……痛かった……?」
「当たり前だろ」
「保健室とか……いかなくていいの?」
「今から行くんだよ」
 あたしはそのまま、彼の後ろをついていった。だって痛いのはあたしのせいだし……。
 保健の先生は外出中だった。
 上滝くんははぁ、と息をつくと、ベッドに腰掛けた。
「あの……湿布とか、する?」
「いらねーよ。ここで少しさぼってく」
「いや、サボりはダメでしょ?」
「あんたは帰ればいいだろ」
 じろり、とあたしを睨み上げる。
「だって、あたしのせいで……」
「こんなん怪我のうちに入んねーって。それに、別にあんたのせいじゃない。俺が勝手にしたことだろ」
「本当だったらあたしに当たってたボールで怪我したのは、やっぱりあたしのせいだと思うんだけど……」
「……いちいちうるせー女」
 や、あたしの方が絶対、正論だよね?
「えっとっ……何かすること、ある?」
「あ?」
「いやだって……申し訳ないなって思うから、さっきからこうしてるんだけど……」
「ふーん」
 少し考えて、上滝くんは腕を伸ばした。
 ぐい、と首が一瞬息苦しくなったと思ったら、彼の綺麗な顔が目の前にあって。
 あたしは、彼があたしのネクタイを引っ張ったんだと理解した。
「なっ……」
「じゃあ、キスさせろ」
 ……は?!
 思考が止まってしまったあたしの意見なんか聞く気がないらしい上滝くんは、そのまま顔を近づけて、あたしの口唇をふさいだ。
「…………っ」
 慌てて彼の身体を引きはがそうとしたら、もう片方の手が背中に回されて、逃げられないようにぐ、と力を入れられた。
 どのくらい、そうして……キスされてたんだろう。
「……っは……ぁ」
 やっと解放された口唇で息をしたら、そんな吐息が漏れて、あたしは赤くなった。
「なっ……何するのっ」
「何かすることある?って訊くから、キスしたんだろ」
 くっ、と笑って、上滝くんはあたしを見上げる。
 こんな状態なのに、あたしはその瞳が綺麗だな……とか、見とれてしまって、いつまでも彼があたしのネクタイを掴んでることに、気が回らなかった。
「……このまま、二人でサボるか?」
「はいっ?」
 ぐい、とまたネクタイが引っ張られて、あっという間にあたしは、ベッドの上に仰向けに押しつけられてた。

 口唇をこじ開けて、上滝くんの舌が侵入してくる。
「……っんっ……」
 思わず逃げようとしたけど、のしかかってる上滝くんの身体は以外にしっかりしていて、抑え込まれたあたしはどうにもならない。
 あたしの肩を押さえ付けて、上滝くんはゆっくり、キスを楽しんでる。……あたしは頭の中が混乱して、それどころじゃないんだけどっ……。
「……ふぁ」
「可愛い声だすなぁ、あんた」
 口唇を離して、上滝くんは笑った。
「すげ、いじめ甲斐ありそうだな」
「っはっ?」
 いじめって……。
 つい、と首筋に上滝くんの口唇が触れた。
「ひあっっんっ」
 くすぐったくて思わずのけ反る。
 ちり、と何か熱いみたいな感覚……口唇を離すと、上滝くんはそこを指でなぞった。
「ちょっと強くつきすぎたか……ま、いっか。わかりやすくて」
 は……?
 その意味をあたしが理解するのは、もう少し後。
 今は、彼のやりたいように、先の見えない遊びに付き合わされてる状態……。
「……ってちょっと上滝くんっ」
「あ?」
「……本気?」
「冗談で女抱くように見える?」
 あたしのネクタイをほどいてシャツのボタンを外しながら、平然と言う。
「いやそうじゃなくて……今、ほんとにするの?ここで?」
「その言い方、ここじゃなかったら抱かれてもいい、って聞こえるけど」
 くっ、と笑われて、あたしは赤くなった。いやいやいや!抱いてくださいなんて言ってないんだけどっ。
「じゃなくてっ……あのっ、なんであたしっ……?」
「嫌いな女を抱く趣味はねーよ」
 そう言った上滝くんは、ちょっと痛いくらい真剣な目をしていて。
 あたしはそれ以上、何も言えなくなってしまった。
 ブラジャーが押し上げられる。
「んっ……ぁっ」
 ぴくん、と身体が跳ねた。
「着やせするタイプ?」
「なによそれっ」
「だって、思ってたよりスタイルいいし」
「変なこと言わないでっ」
「褒めてんだろ」
「恥ずかしいのーっ」
 くすくす、笑い声が肌をくすぐる。それだけで、胸の奥が熱くなる感じ。
「はっ……ぁっ……やぁっ」
「感じやすいなぁ。まだ触れてるだけだぞ」
「……って……他の人に触られるなんてっ……初めてだしっ」
「そりゃ光栄だな」
 ちゅ、と熱い唇が胸に落ちてきて、あたしはまた、のけ反った。
「やぁっんっ」
 指先と同じように、柔らかくゆっくり、肌をなぞってく口唇。それは今まで経験したことのない感覚だったけど……まだ触れられてない肌が、その口唇を待っているように神経をとがらせて、あたしは自分の身体の反応に混乱した。
 こんな風に、誰でもなるの……?
「んぁっ……はっ……くぅんっ……」
 思わずベッドのシーツを掴んだ。そうでもしないと、自分の身体がどこにあるのかすら、分からないくらいで。
 ……こわい。
 そう思った瞬間、目尻から涙が零れた。
 なんでなのか、分からないけど……。
 それに気づいた上滝くんが、あたしの頬に手のひらをあてた。
「……怖いか?」
「……ちょっと……」
「俺のこと、嫌い?」
 順番が全くあべこべな気がしたけど、あたしは真面目に首を横に振った。
「……嫌いじゃ、ない」
「じゃあ、大丈夫」
「なにが?」
「ちゃんと俺のこと、感じれるはずだ」
 大きな手があたしの眼鏡を外して、頬にキスされた。
「……まどか」
 名前を呼ばれて、どくん、と身体の奥が反応する。
 それは明らかに、彼に触れてもらいたいという欲望が、目覚めた瞬間だった。

「っぁあっ……はっ……んんぅっ……」
 上滝くんが触れる度、あたしは制御できない神経の昂ぶりに翻弄されて、自分でも思いもしない甘い声をあげた。
「……やぅっ……そこっ……」
「んー、ここ?気持ちいい?」
「ふぁっんっっ」
 上滝くんはあたしの声の動きで、愛撫を変えたり、力を込めたり……あたしを追いつめていく。
「んくぅっ……はぁっ……あっああっ」
「……ほんと、かわいいな」
 くすくす、上滝くんは楽しそうだけど。
 あたしは全然、余裕なくて、自分の身体なのにコントロールできないくらい。
「……っあっ!待ってっ」
 す、とスカートの中に彼の手が入り込んで、さすがに慌てた。
「まって……あのっ……」
「ばっか、ここまできて待つ男はいねーって」
 上滝くんは少し怒ったみたいに言った。
「で、でもっ」
「好きな女がこんだけ誘ってんのに、我慢できたらそいつは男じゃねって」
 その言葉に、あたしはまた赤くなる。
 ……ずるい。
 自分だけ気持ちぶつけてきて、さっさと進んでって。
 あたしってばただ、引っ張られてるだけじゃない……くやしい。
「……やぁっ」
 そんな事考えてるうちに、上滝くんの指は太股をなで上げてショーツにたどり着いてしまって、あたしははっとした。
「ここ、熱いだろ」
 にや、と笑って、足の付け根の辺りを指でなぞる。
「んんぁっ」
「それでいいんだよ」
 何が……?
 そう聞く前に、さっとショーツが抜き取られてしまう。
「やっ……やだぁっ」
「ヤダヤダうるせーなっ。もっと他のこと言えねーの?」
「だって……きゃうっ」
 自分でも熱いって分かってるそこに、上滝くんの指が触れて、あたしは声をあげた。
「やぁっ……んあっ……あっああっっんっ」
 声が……抑えようとしても声が出ちゃう。手の甲を口にあてたら、上滝くんがその手を引き下ろした。
「誰もいねーんだから、声だせよ」
 って、ここは学校の保健室だよ?
 いつ誰が来るか分からないのにっ……。
「はっ……ああっ……んっ……ふぁっ」
 ちゅ、と僅かにしめった音がして、上滝くんの指がソコに侵入してきた。
「ひぁっ……ぁあっっんっっっ」
「すげ……めちゃ熱いな、まどか」
「やぁっ……動かさなっ……ああっ」
 くちゅくちゅ、恥ずかしい音が響く。感じてるって……身体があたしに教える音。
「ぁあっ……上滝くっ……」
「あ?」
「あのっ……あ、たしっ……」
 好きだよ……と言おうとした。ちゃんと伝えないとって。
 だけどその口唇を、上滝くんの口唇にふさがれてしまう。
「……言わなくても分かってっから、今はんなこと考えんな」
 上滝くんは、優しい声で囁いた。
「まどかが俺に反応して感じてるってだけで、分かるからいーんだよ」
 だから。
「感じることにだけ、集中してろ」
「はぁっっんっっ」
 ぐ、とそれまでより強く動かされた指に、あたしは上滝くんにしがみついた。
「っはっ……指ちぎられそう……これで俺のモノいれたら、まどかどうなるんだよ?」
「ぇっ……あっ」
 にや、と綺麗に笑って、上滝くんは指を引き抜いた。
「……俺も気持ちよくしてくれよ、まどか」
 耳元で囁いて、熱いモノが、あたしの身体の中心に触れた。
「……いっ……あああああっっっ」
 やけどのような痛みが走って、その後のことは、覚えてない。

 制服を整えて、チェックしよう、と姿見の前に立って、気づいた。
「やっ……上滝くんっ?」
「んだよ」
 かったるそうに、彼が振り向く。
「これっ……」
「ああ、ちょっと目立つけど、いいんじゃね?」
 くすくす笑ってるけど……笑い事じゃないんですけどっ。
 あたしの首筋に、くっきりはりついてる、赤い花びら。
 キスマーク。
 当然つけたのは、目の前で笑ってるこの人。
「信じられないー!なんで見えるところにつけるのっ」
「ばっか、見えなかったら意味ねーんだよ、キスマークなんて」
「なにがっ」
「そういう相手がいる、って、周りに知らせるためのものだろ」
 それは絶っっっっっっ対違うと思うんだけどっっ。
「いーんだよ。これで、お前に言い寄る男はいなくなるんだから。文句言うなら、体中につけるぞ」
「……それは遠慮しとく」
 くっくっ、楽しそうに笑って、彼は優しいキスをくれた。




Copyright(C) 2006 akeki kamuro all rights reserved.

 鹿室さ〜ん!!ステキなお話をどうもありがとうございました。
 このお話は我が家の家宝にございますからね!!
 これからもよろしくお願いします!!

 柏田華蓮