home > novel index > introduce > fuu様 8万HITキリリク




ヒラリ舞う桜。

 ハラリ舞う雪。

  月を見上げ微笑む、想人。




 彼女はいつも笑わない。
 彼女を知る人は皆、口を揃えて彼女を『冷姫(ひやひめ)』と呼ぶ。

 だけど僕だけが知っている。

 彼女は笑うととても可愛い――――ということを。

だから僕は彼女を想う。
 いつも僕の傍で微笑んで欲しいから。


僕だけの君。君だけの僕。




 彼女を最初に見たとき、やっぱり彼女は愛想笑いすらしない、とても冷たい女の子だった。
 それがゆえに、周りの生徒は彼女と接触することすらせず、いつの間にか『冷姫』と影で呼ばれるようになっていた。

 彼女の名前は、姫島 風香。

 僕的には、学校の中で一番可愛い容姿を持っていると思う。
 でも、それを言うと誰もが僕を否定する。そんな彼女は、噂の『冷姫』。告白の件数はタメから2,3年の先輩まで数多ある。自慢じゃないけど、僕も告白は何度かされたことがある。しかし、両方とも了承したことはない。

 はっきり言って、僕は彼女に恋をしている。

 周りからは、それは間違いだと否定されるけれども、僕の心は彼女で埋め尽くされている。


 それはいつからだったかな??



 あぁ、そうだ。あの綺麗な桜を見上げた日・・・・





 その日は至って陽気な春の暖かい日。
 僕はいつものように塾から帰る途中に通る、公園の桜を見上げながら歩いていた。
 桜の見ごろもピークを超えて、あたりの桜は葉桜になりかけていた。でも、ぼくが毎日通る公園なだけあって、桜の絶好ポイントくらいは密かに知っている。

 公園の隠れ家的な小さな森に入ったところ。

 そこは、一本の桜を囲うようにして池が水を張り、木々の陰の隙間から射し込む日差しがただ桜を照らしている。
 その雰囲気だけは何とも幻想的であり、僕が一番好む風景の1つだった。

 この隠れ家は僕だけが知っている場所だと思っていたのに、その日だけは僕よりも先にお客さんが着ていた。

 白い膝丈のワンピースにGジャンを羽織って、微笑みながら桜を見上げる女の子。

 最初は幽霊かな・・・・なんて少しびっくりしたけど、よく見てみればそれは学校でよく見知った顔の、『冷姫』こと、姫島さんだった。

「姫島さん?」
「!!」

 僕が声をかけたときは何だかびっくりしたように、僕のほうを急ぎ振り向き怪訝そうに睨み付けてきた。

「あ、ゴメン!!・・・驚かして。」
「うちの学校の人??」
「え、うん。3年2組の鳴戸耕平って言うんだけど・・・。」
「鳴門君・・・。聞いたことある名前ね。何処でだったかしら??」

 そういいながら少し声をうならせ悩んでいる彼女を見て、なぜだか僕の胸が弾んでいるのが分かった。

「たぶん、委員会が一緒だからかな。」
「え、そうだったの?!気づかなかった・・・ごめんなさい。」
「いいよ。それにしてもさ、姫島さんもここの場所知ってたの?」
「・・・『も』?ううん、私は今日初めてここを見つけたんだけど。もしかして、鳴門君のお気に入りの場所だった?」
「まぁね。いつも塾帰りはここに寄る。」
「塾の帰りなんだ。でも、・・・ここの桜って、表の桜と違ってとても綺麗に咲くのね。」
「だろ?この幻想的な風景がとても好きなんだ。」
「そうなんだぁ〜。」

 笑いながら僕の話を聞いている彼女の顔は、学校のときと違ってとても穏やかで可愛かった。

「いつもさ、学校でこう・・・眉間に皺が寄って怖いってイメージあるけど、姫島さんは笑ってるほうが可愛いよ・・・・??」

 僕が無意識にそう言葉にして呟いたことを耳にした彼女は、何だか照れつつも目線を遠くして呆れながらも微笑み僕に返してきた。

「なぜか、学校では笑えないのよね・・・・。」



 あの日以来、僕は姫島さんとよく学校で話すようになった。


 それが原因なのか、僕は以前より放課後に呼び出され、告白を受けることが多くなった気がした。
 原因ってわけじゃないけどさ・・・・。こう、面倒臭いって感じになってるんだよね。

 で、姫島さんと話すようになって僕がどうなったか??
 気づいてるはずだよ。

 恋にはまっしぐらなんだよ。
 それはそれは日々何かの観察ってわけではないけど、クラスは違うから彼女の体育の時間のときとか、窓越しから彼女を見てたり、廊下を歩いてるところを見て、話しかけてみたり、・・・ちょっとストーカー??って自分で思うくらいに怪しいけど、目は確実に彼女を追っていた。


「学校って疲れるのね。」
「え、そう??」
「・・・・鳴戸君は楽しそうだけど、女の仲は鋭くてもっと激しいのよ。」
「・・・・鋭くて、激しいぃ〜?よく、分かんないよ。」
「そりゃ、男子の友情って妙に団結力があって?私から見てみれば、なんとさっぱりしてて羨ましいことか!!私も男に生まれたかったわ。」
「えぇ〜・・・・それは詰まんないよ。」
「詰まるわよ。」
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・」

 他愛無い会話でも、胸は弾むし目が合えば嬉しい。
 一般的な恋の楽しさを満喫してみる。

 こんな片思いの楽しさを自分ひとり、楽しんでて良いのかなんて思うことも確かにある。
 だから、

「――――――――――」

 ふと聞こえた後ろの女子の言葉に、彼女がムッと眉間に皺を寄せたのが分かった。
 
 僕には何を言っていたのかはよく分からなかったけど、彼女の眉間の皺がよるくらいだ。何か僻みを言ってきたんだろうと僕は予測した。


「姫島さん、ココ皺よってる。」

 僕が指差した場所に手を当てて、彼女は少しイラつきながら摩って僕のほうを見上げてきた。

「ホントだ。気がつかなかった・・・。」
「ゴメン、何か言われたの、僕のせいだよね。」
「そうでもないわ。いつも言われてることだもの。慣れてr・・・」
「慣れないよね。『冷姫』っていつも言われるから、笑えないんだよね。」
「・・・・」

 コクンと頷く彼女を見て、僕は彼女を何とか笑顔にしたいと思うようになった。

「じゃ、これから僕が話し相手になるからさ、何でも話して。」


 僕って意外とずるい奴かもしれない。

 彼女の痛みに漬け込んで、彼女を自分のものにしようと必死で、彼女を知りたくて、・・・・醜い。



「昨日のテレビ見た??あの何だっけ・・・お笑いコンビの、」
「あぁ、8時からあったやつ??見た見た。」
「あれすっごい笑ってさぁ、今日朝起きたら腹筋が痛くって堪らないのよねぇ」
「え、あれ姫島さんには爆笑ものだったの?相当笑いの線が低いんだな。」
「えぇ〜爆笑ものでしょ??あれで笑えなかったら、相当鳴戸君の笑いの線は手厳しいのね。;」

 僕と彼女の『冷姫』改善協定が結ばれてから、彼女は気軽に僕に話しかけるようになるとともに、少しずつだけど、学校で笑って見せるようになった。

 学校以外では、あの桜の木。

 僕の塾の終了時間を見越して、彼女はあの場所によく来るようになった。
 どうやら家があの公園の裏らしい。

 本当にくだらない話をして、時々先生の愚痴を言ったりする。
 そんな日が何日か続いたある日。

 僕は急に焦りを感じた。

「最近さ、俺胸トキメキの出来事があったんだよ〜。」
「はぁ、何だそれ。」
「この前さ、ちょっと職員室に呼び出されて、たまたまあの『冷姫』が一緒になった訳。んで、話しかけてみたら、全然普通の人でさ、俺高感度UPした〜。」

 そう、笑顔で話す小学校からの友達の裕也は、頭に彼女を思い浮かべているのか、昇天しきるような面持ちで、その出来事を語っていた。

 確かにここ数日で彼女は何だか可愛くなっていることを僕も思っていた。
 けど、それをほかの奴が見ていることが何だか気に食わなかった。
 そう思ってることに、気がついたもう1人の友達の正人が裕也を宥めつつ、俺の話を聞いていた。

「なぁなぁ、耕平ぃ。最近『冷姫』と仲良いんでない〜?」
「確かになお前だけ『冷姫』のこと姫島さんって言ってるもんな。」
「別にいいだろ。前から言ってるし。」
「・・・・・小学校からの付き合いだからさ、ものは相談なんだけど。」
「早く言えよ。」
「耕平、姫島さんと仲いいじゃん。取り持ってくれたりしないかなぁ、なんて。」
「何で。」
「彼女さ、告白しても断るじゃんか、そんで仲の良い耕平を間に入れたいなぁ・・・・と。」
「断る。」
「何でだよ、前から『冷姫』狙ってたのはお前だからか!?」
「おい、やめろって裕也。」
「そーだよ。けどなぁ、告白くらい自分の力で何とかしろよっ!!」
「ちょっ、二人ともやめろって。」


「鳴門君・・・」



 そう、それは完璧に僕の焦りと不安。

 僕と裕也が、互いの胸倉をつかみ合うようにして、睨み合うと昼休みの騒がしかった教室は、僕たちの取っ組み合いにより、しんと静まり返って注目の的と化していた。
 その大衆の目の中のひとつには、今の話を聞かれたくなかった姫島さんの姿までもがあって、僕はふりっ切ったはずの怒りのメーターを急速に落とし、彼女を視界に入れないようにして居心地の悪い教室を出た。




「カッコ悪ぃ・・・・」



 屋上に出て見上げた空に向かって、一言僕は呟いた。


 でも、好きだから好きなだけ好きになって、後一歩って時に自滅する。
 溜め息がつきたくなるほど、かっこ悪いけど、子供だけど人を好きになることくらいある。

「カッコ悪ぃけど・・・・」

 諦められなくて、好きすぎて、

「誰にも渡したくねぇんだよ。」


「私もだよ。」


 ふと後ろから聞こえた優しい声が、風に乗って僕の耳に聞こえてきた。

 僕ははっとして、後ろを振り返ると、そこには姫島さんがドアの傍にたたずんで、僕のほうを見ていた。


「私も、鳴戸君の秘密の場所とか、二人で話した内容とか時間とか、独り占めしたいし、邪魔されたくない。」
「でも、」
「私がもしあの桜だったら、鳴門君にあの時出会わなかったら、私はいつまでも咲かずの桜だった。私がもし、あの桜の花びらだったら、誰にも捕まらない。ただ、鳴門君の手に捕まえられるように、ヒラヒラ舞う。」
「・・・・姫島さん??」

「ただ、それだけ言いたかった。たぶん、何言ってるか分かんないかもしれないけど。」

 彼女は少しだけ微笑みながら、僕に言うと屋上から去ろうとドアノブに手をかけた。

「待って風香。」

 彼女の背中に向かって呟いた優しい彼女の名前。
 彼女だけを示す特別な名前。

 肩をつかんで、とどまらせるには少し強い力だったかもしれない。
 でも、彼女を逃がしたくなくて、僕の気持ちを伝えたくて、一生懸命言葉にしてみる。


 つまり、君が言いたかったのは・・・



「僕も、あの時風香と会えて良かった。風香と話せて嬉しいってずっと思ってた。僕は・・・風香より全然かっこよく言えないけど、でも好きって気持ちは誰にも負けないからっ。」




 ―――――ねぇ、知ってる??
 花びらが散ってるときに、連続で5回素手で花びらをキャッチしたら、願いが叶うんだって。

 でも、ほとんどは恋愛ごとなんだけど・・・・。


 女の子ってそういう願掛け好きだよね。



 いつも誰かのものでいたいって思いたいもん。








-----Fin-----


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-------管理人より-------
 fuu様、8万HITリクエストありがとうございました。
 遅くなりましたが、リクエストの品です!!
 ぶっちゃぇて、全然リクエストの『桜を見に行った際での出来事』とは無関係になりつつある作品になってしまったこと、この上なく感じております。駄筆な私です。(汗;;
 でも、リクエストをいただいて、構成を考えるときはとても妄想が膨らみいくつもいくつも書きたい内容が出てきました。後々の作品の作品の種にしたいと思います。
 こんな機会を与えてくださり、ありがとうございました!!
 また、こちらの事情により作品をお持ちしましたことが、大変遅くなってしまったことを深くお詫び申し上げます。
 
 最後に、このリクエスト作品が気に入ってくださったら、天を舞うほど喜びますので、(あ、無理強いなしで)そのときはもらってやってください。笑
 それではっ。

※もし、WEB上で掲載される場合は、どうぞご連絡の上、上記の「EPOCH AISLE」にリンクをお願いいたします。それから、管理人よりの言葉も削除して置いてください。お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。


update : 2007.04.25
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